「愛では死神から逃れられない」イニシェリン島の精霊 RYさんの映画レビュー(感想・評価)
愛では死神から逃れられない
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傑作だと思います。過剰に開放された現代において、このような寓話的で閉じた物語を一つの映画という秩序として立ち上げようとする意志を歓迎します。
死神(=Banshee)は二人が死ぬことを予言しました。死神がパードリックに言ったセリフをそのまま受け取り、この二人とはパートリックとシボーンの兄妹二人をもともとは指していたと私は考えます。冒頭に死神が暖炉の近くで二人の親の死んだ期日を尋ねていたことは示唆的です。
湖でシボーンがドミニクに会う直前、死神はシボーンに手招きしました。あのまま行っていればシボーンは死んでしまっていたでしょう。しかしドミニクはシボーンに愛の告白をし、そのためにシボーンの代わりとして湖で死にました。
パートリックはコルムの家に火をつけ死神の約束した死から逃れました。しかしコルムは死ななかった。最後に死神はコルムの家を訪れましたけども、憎しみ合うパートリックとコルムを眺めるだけでした。
パートリックとコルムは半分ずつ死んだのでしょう。死神の予言は実現し、二人は激しい闘争関係にある癒着して分割不可能な一人となったのです。死神はそれを愛すでしょう。
死神から逃れるためには愛ではなく闘争です。私はこの映画の提示したそのような秩序に魂が痙攣するような感動を覚えます。払うべき代償を払いながら、この世界におけるある代え難い真実の叫びを引き受けたような気がするのです。
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