「昨日の友は今日の敵」イニシェリン島の精霊 ますぞーさんの映画レビュー(感想・評価)
昨日の友は今日の敵
アイルランド内戦
独立戦争ののち英国との
間で締結された「英愛条約」
が警察権や領分といった点で
満足のいくもので
なかったために条約推進派と
自由独立を掲げる
アイルランド共和国(IRA)との
間で起こった内戦
独立戦争を
「ともに戦った仲間同士」
で突然始まった殺し合いとなり
結局独立戦争より死者が出た事
その後のIRAに端を発するテロ
有名な血の日曜日事件など
今に続く北アイルランド
問題など深く爪痕を残した
この内戦は
1922年6月からほぼ1年間行われ
この映画はそんな時代背景で
あることを前置きにすると
馴染みやすいかもしれない
そんなアイルランドの
(架空の?)孤島
イニシェリン島でおこる
人間模様
感想としては
決して時代固有のテーマでは
なく少し間をおいて意味と
考えると色々深い映画だと
思いました
島で読書好きの妹シボーンと
暮らす気のいいパードリックは
野良仕事が終わると
いつものように友人の
コルムを午後2時にパブに誘うと
いつもと様子が違い出てきません
問いただすと「お前とは口を利かない」
とコルムは言い出します
面食らったパードリックは
理由を尋ねるとバイオリンに
心得があるコルムは
「後世に残る曲を作るからお前の
退屈な話は聞いていられない」と
ハッキリ言われていまい落ち込みます
シボーンは病気に違いないと
パードリックをたしなめますが
ますます心配になります
パードリックは確かに
暮らしも凡庸だし
話のつまらなさは
読書好きの妹も認めるところ
ですが少なくともコルムに
そこまで言われるほどの
事はない優しい男
島のクズ警官の息子で
少し知的障害があり
父親にはいつも殴られ
皆に馬鹿にされている青年
ドミニクもパードリックには
よくなついています
コルムはパブにやってくる
音大の学生たちと楽しく
音楽を演奏しており他人との
付き合いも変わらないようです
エイプリルフールかというと
そうでもなく
納得できないパードリックは
周りの人や島にくる牧師にも
理由を尋ねさせますがコルムは
ついに「これ以上話しかけるごとに
自分の指を一本ずつ切り落とす」
と言い出しパードリックは
ますます困惑します
そしてパブで再び
コルムを見かけたパードリックは
スコッチをあおり酔った勢いで
友人より音楽をとって何になると
なじりだします
するとコルムは音楽は後世に残る
友人関係は死ねば消えてなくなる
モーツァルトのように語り継がれる
音楽を残したいと言います
パードリックは妹に連れられ
パブを去りますがその後
家のドアを叩く音がして
行ってみるとコルムの
切り落とされた指が落ちており
大騒ぎ
パードリックは混乱のあまり
指を返しに行くとか
事態を把握出来無くなっているので
シボーンが指の入った箱を代わりに
返しに行くとコルムは悪びれる様子も
なくこうでもしないと
わかってもらえないと言います
そこまでする必要が理解できない
シボーンは二度と関わるなと
コルムをどやしつけます
そんな折シボーンは「本土」から
図書館の仕事のお誘いの手紙が
来ておりこの島を捨てるかと
迷っているところで
パードリックのことで
絡んでくるクズ警官を無視したら
「行き遅れ」と言われ
だいぶ決意が固まっている
ところでした
この島の人間は狂っている
と割り切りだしたのです
このへんのタイミングで島の老婆が
「もうすぐ2人くらい死人が出る」
と告げに来ますがパードリックは
クソババアと追っ払います
パードリックはいい奴で
まだ心配している気持ちの方が
強かったですがパブで音大の人と
仲良くしてるコルムを見て
お前の父親が危篤だと嘘をついて
追い返すなど意地悪をしてしまいます
ドミニクにそれを話すと
あんたは優しいと思ってたのにと
予想外にドン引きされて
立ち去られてしまいます
ドミニクはその後シボーンに
思いを打ち明け断られると
行方が分からなくなってしまいます
パードリックはその後
コルムの家に押しかけその
後世に残す「曲」は出来たのかと
問いかけると今朝出来たと言い
題名は「イニシェリン島の精霊」
であると告げます
その精霊とは「バンシー」という
死を予告する死神のような養成のこと
そいつらがせせら笑っているのが
気に入らなかったとコルムは言います
いまいち意味がわからない
パードリックは
「曲が出来たのなら関係は元通りだ」
と解釈しパブで飲もうと告げます
しかしコルムはパブに来ず
妹がまたコルムに接触したのかと
連れ戻しに来ると家には
コルムの左手全部の指が
投げつけられていました
妹はもう完全に決意し
島から出ていきます
パードリックは俺はどうなると
抗議しますが兄さんも島を出ろと
言われ一人になってしまいます
そして妹を見送り家に帰ると
可愛がっていたロバのジェニーが
コルムの指をのどの詰まらせて
死んでいました
パードリックはパブのコルムの
元を訪ね
「お前のせいジェニーが死んだ」
「報復で明日お前の家を燃やす」
「止めたければ止めてみろ」
「どちらかが墓に入るまで続く」
と宣言します
完全に決裂です
コルムもジェニーの死は
予想外の事故で困惑しますが
もうパードリックは予告通り
火をつけに行きますが
コルムが飼っていた犬はよそに移し
家を燃やすと中にコルムがいました
でもお構いなしにそのまま立ち去り
家は全焼します
コルムは死んだのか?
パードリックがしばらくして
家の周りに行くとコルムは生きており
犬を世話した例を言われますが
パードリックは宣言通り憎しみは
消えないと言って立ち去ります
・・・
結局この映画の感想は
色々あると思いますが
コルムの心境の変化に与えたものが
何だったかは仲間同士が殺しあう内戦とか
島そのものの閉塞的な環境だとか
パブに音大の人間がやってきたとか色々
あるでしょうが「パードリックを拒絶
してまですることだったか?」という
ところ
確かにコルムは音楽を嗜んでいますが
モーツァルトの年代も間違えてる
レベルの知識量で音大の学生に
演奏してもらったところで
本当に後世に残る曲になったか?
作中にそこまでの演出はありません
表現としては
「指を切り落とすほどの決意で
親友を切り捨ててまでして作った
ものではなかった」と言いたげです
最後に家と一緒に
死なせてももらえなかった事が
彼がこれから背負う苦しみ
パードリックもどうか?
確かに島で一番じゃないか
というほどの優しい男ですが
コルムに指を実際に切り落とされても
まだ事態を認識できていないほど
「依存心」が強く思考停止していた
ように描写されています
実際妹が家を出ていく事態も
承服しきれていなかった
でもコルムの家を燃やしたことで
パードリックは完全に変わってしまった
恐らく今後人を信じたり優しく
接することもなくなっていったと
思います
では
コルムがパードリックに正直に
後世に残す曲を作りたいと
夢を語ってしばらく集中させてくれと
言ったら?
この映画の描き方からすると
たぶんパードリックはわかったよと
承服して出来たんじゃないでしょうか?
出来ることがあったはずなのに
コルムの家は燃え左腕は指が全部なくなり
パードリックとの関係は破壊され
パードリックはジェニーも妹も失った
なぜそうなったのでしょう?
時折出てきた魔女っぽい婆さんは
本当は現存しなかったのかもしれません
主要登場人物たちであれが見えた人々
達の周りで死が訪れたのは確かです
「壊すのは簡単
でも二度と元には戻らない」
この映画に
ふさわしいのはこの言葉だけなのかもしれません
とっつきやすいとは言えませんが
いい映画でした