「イニシェリン島の内戦。」イニシェリン島の精霊 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
イニシェリン島の内戦。
アイルランド人同士が激しく争いあったアイルランド内戦。一方は不完全ながらも大英帝国からの分離独立の足掛かりとして英愛条約を受け入れ、一方は不完全な独立は許しがたいと民族主義にとらわれて条約を受け入れたアイルランド自由国に反旗を翻す。
1923年アイルランド諸島の小さな島でそれは起きた。酪農か漁業以外これといった産業もない小さな島。午後二時には仕事も終えて他にやることがない島民はパブに集ってはとりとめもない会話で時を過ごす。本作の主人公パードリックとコルムもそんな二人だった。
そんなある日パードリックはコルムから付き合いをやめたいと言われる。何の変化もない島の暮らし同様に何ら変わろうともしないパードリックに嫌気がさしたというのだ。そう言われても納得ができないパードリックは彼に食い下がるが、コルムは頑なに態度を変えないどころか自分の指を切断までしてしまう。それほどまでに強固な意志でパードリックを遠ざけようとする。
毎日とりとめのない会話で日々を浪費するだけの人生ではなく有意義な人生を送りたいコルム、ただ同じ毎日を過ごせればいいパードリック。まるで革新派と保守派を象徴するかのようなふたり。同じアイルランド人ながら相容れない二人の争いはとどまるどころか激しさを増してゆく。
ロバを殺された報復として自分の家を焼き払ったパードリックにコルムはこれでおあいこだと争いの終結をもとめる。しかし争いはまだまだ続く、それも悪いことではないのかもと言い捨てて去ってゆくパードリック。
まさに親友だった二人の諍いを通して現在に至るまでの北アイルランド問題を、そして現代において世界中で生じている様々な分断をサスペンスフルに描いてみせた傑作。
特にアイルランド問題を知らなくても楽しめる作品。序盤の牧歌的風景の美しさ、とりとめもない絶好話から後半サスペンスフルな展開と終始興味をそそられた。
レントさん、こころさん、コメントありがとうございます。
後からじわじわと感じてくる作品でしたね~
動物愛をしっかり描いているところに人間の良心さえ描かれていて、すべてを否定しているわけじゃないところも心に残ります。
コメントありがとうございます。
動物がみんなかわいかったですね。窓から顔を覗かせる馬さんも、飼い主との距離が近いというか、家畜のはずなんだけどペット的な関係性が見えてほほえましかったです。
内戦の暗喩なんだろうけど、確かにその問題を知らなくても、日常から生まれる不条理ホラーとして見応えがあると思います。