「咀嚼するのに時間がかかる」ボーンズ アンド オール Hihiさんの映画レビュー(感想・評価)
咀嚼するのに時間がかかる
稀に、咀嚼しきれない映画を見る事がある。まさに今回の映画はその類のものだった。想像しやすいストーリー、演技派ぞろいのキャスト、観客の情感を煽る数々の旋律。計算されつくされた美しさは、一見チープとも言えた。けれど、飲み込めない。心のどこにもつっかえないままに、映像は流れていった。
もちろんそれだけと言えばそれだけなのだけど。同じ監督の映画を見た際に似たような感情を抱いたので、少しこの気持ちを解きほぐしてみようと思い文字に書き起こしている。
人をくらうという事を軸としたこの映画は一体観客に何を投げかけているのか。正解のない日々にもがきながらも微かな幸せを、大切に大切に抱きかかえながら過ごす日々。その刹那の瞬きの中に何が隠されていたのだろう。
人は常に何らかの欠陥を伴い、孤独というものに鈍感であり、敏感だ。
一度自らの不足分を知ってしまったら、孤独に気づいてしまったら、あっという間に均一だったはずの世界は崩れてしまう。もう過ぎ去りし日々の思い出は散々に砕かれて、かき集めた愛しい日々はどろりどろりと指の隙間から滴り落ちていく。
脆くて愚かな人間は、ここでどうしようもない矛盾を抱える。
美しく生きたい。醜く生きたい。それは生に対するどうしようもない憧れと執念が生み出した魔物だ。誰しもの心に巣くうおどろおどろしく、気高い魔物。
私達はその片鱗を映画の中に垣間見たのではないだろうか。
骨ごと食いつくしてしまうことで得られる恍惚感。後には何も残らない。
白いシーツは真っ白で、風で柔く揺れる草原はおぼつかない。それが幻であれば。それが私の一部であれば。私はもっと強く生きていけるだろうか。この矛盾を愛しいものであると認めれば、もっともっと、私は美しくあれるだろうか。
これが私なりの映画の解釈だ。
最後の自問に対する答えはない。それは、これから生きていくうえで見つけていきたいことだ。