配信開始日 2022年9月28日

「虚構と現実の狭間でも、我々は彼女がお好き」ブロンド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0虚構と現実の狭間でも、我々は彼女がお好き

2022年10月3日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

難しい

萌える

セックス・シンボル、ダム・ブロンド、恋多き女優、スキャンダラス問題児、タフな女性、名女優…。
形容出来る言葉は幾らでも挙げられる。
そんな悪評や伝説、史実に虚構まで入り乱れて、全て引っ括めて、“マリリン・モンロー”。
彼女ほど波乱に満ち、闘い抜いた生涯を持つ女優は居ないだろう。
故に映画の題材になる事もしばしば。“ノーマ・ジーン”と“マリリン・モンロー”として。映画撮影中の秘話として。
しかし、本作ほどの問題作はないだろう。何故なら、
本作はマリリン・モンローの伝記映画に非ず。マリリン・モンローは実在の人物だが、作中描かれるエピソードはほとんどが創作。
つまり、ノンフィクションとフィクションを交えて描かれる、異色のマリリン・モンロー物語。
作品自体もKO級のヘビーさ。賛否両論必至。本作を真に受けてマリリン・モンローの生涯はこうだった…と誤解される危険性すらある。

本当に本作で描かれるエピソードの数々は物議と批判レベルの衝撃だ。
マリリン・モンローの生涯は先述した通り何本か映画になり、伝説として後世に残るほど語られ、少なからず知っているが…
冒頭、母親から虐待を受ける幼少期のノーマ・ジーン。孤独な幼少期を送っていた事は知られているが、母親から虐待を受けた事はないという。里親からは虐待を受けたそうだが…。
多くの男性と浮き名を流したマリリン。それはスキャンダルやゴシップとしてマスコミや世間の注目の的となったが、本作では男どもの欲望にもみくちゃにされる悲劇性。
マリリンは“ノーマ・ジーン”を自らプロデュースし、圧倒的男上位のハリウッドと闘ったパワフルな女性ではなかったのか。
3P、DV、“噂”だった時の大統領との関係も生々しく。
晩年の不遇も演技派女優になりたい自身の本当の望みとセクシー女優を望む会社や世間との溝に疲弊したとされているが、これじゃあ悲劇の渦中に晒され病んだ精神薄弱者のよう。
では何故、こうも大胆脚色…いや、捏造レベルの創作劇に…?

まだまだ多くの謎や秘話、伝説に包まれているが、マリリン・モンローの生涯は一般的に知られ、幾度も語られてきている。
同じ事を繰り返しても焼き直し。
そこで敢えて批判も覚悟で、史実に虚構を交えて。
興味深いのは、マリリン・モンロー自体がそれという事だ。つまり、
虚構のマリリン・モンローと、現実のノーマ・ジーン。二つの名前、顔、人生を持つ。
セックス・シンボルとされているが、虚構と現実の数奇な人生を送った象徴そのものではないか。
だから嘘と分かっていても、否定指摘しても、その裏に含まれた誇張さを異様にリアルに感じてしまうのだ。

とは言え、本作は激しく好き嫌い分かれるだろう。
その独創性が刺激的でもあり、嫌悪感すら覚える。
男に暴力を受けるシーン、生々しい性描写、見てるこちらがヘビーになるほどの精神錯乱の様…。
悪夢か白昼夢か、ダーク・ファンタジーか、自分は何を見ているのだろうと分からなくもなってくる。
カラーになったりモノクロになったりも不思議な感覚に陥られる。その使い分けの意味も謎。当初はノーマ・ジーンがカラーでマリリン・モンローがモノクロと思っていたが、そうでもなく…。
これはあくまで彼女の精神や内面を反映し、尚且つ監督のセンスなのかなと。
アンドリュー・ドミニク監督の作風も好みの分かれ目になるだろう。
『ジェシー・ジェームズの暗殺』『ジャッキー・コーガン』…熱狂的に支持される一方、合わない人には合わない。ちなみに私は、後者…。
超異色問題作の本作は、監督作の中でもその極みになるだろう。

白人のマリリン・モンローを、キューバ人のアナ・デ・アルマスが演じた事も議論の的。
そもそもマリリン・モンローを真に演じる事の出来る女優など、この世に存在しない。それくらい唯一無二の存在。
だが、本作のアナ・デ・アルマスの熱演には、バッシングやプレッシャーの全てに挑む覚悟を見た。
セクシーさ、ヌード、大胆なシーンに果敢に挑み、キュートさ、儚さ、危うさ、その繊細で複雑な内面を全身全霊込めて体現。
マリリン・モンローが演技派として認められたかったのと同様に、可愛さが人気のアナ・デ・アルマスが実力派女優として大きく飛躍。
オスカーかラジー賞か、どっちに転ぶか分からない。が、その熱演にして怪演は一見の価値あり。

マリリン・モンローの伝記映画を期待したら…。
一人の女性の波乱万丈ながらも自らの生き方を貫いたサクセス・ストーリーを期待したら…。
ことごとくKOされる。
超問題作。
が、インパクトは格別。今年の作品の中でもある意味記憶に残るだろう。

そして、改めて知る。
どんなに創作されても、我々は彼女がお好き、と。

近大