「移民として、母として、娘として。複層的な視点によって見えてくるもの」サントメール ある被告 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
移民として、母として、娘として。複層的な視点によって見えてくるもの
とても複層的な視点と構造を持つ作品だ。ギリシア悲劇「メディア」を思わせる一つの衝撃的な事件についての「法廷劇」でありながら、そこにナイフを深く入れるやミルフィーユのように、社会や文化や被告の女性が歩んできた人生の断面が剥き出しとなっていく。これを具体的な供述の回想シーンなどを用いながら紡ぐという方法もあっただろう。しかし作り手のアリス・ディオップ監督はそういった安易さに陥ることなく、まずは裁判での長いやりとりや言葉を我々に突きつけ、主人公で作家のラマと同じ視点でじっくり追体験させる。やがて浮かび上がってくる被告の半生、フランスでの生活、追い詰められていく精神状態・・・。それと似た人物をラマはよく知っている。それは移民としてこの国にやってきた女性たちであり、母たちであり、なおかつ娘たちだ。これまでスポットの当たることのなかった人々の慟哭と、母娘の理解と寄り添いの物語が、静かに胸を締め付ける。
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