「よく伸びたから地球が救われた」ファンタスティック4 ファースト・ステップ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
よく伸びたから地球が救われた
ファンタスティック4はある意味リーダーの能力に対する不審の解消を目的とした物語といえる。と言うのもスーは磁場を発生させ透明になって瞬間移動もできるし、ジョニーは火の玉になって空を飛べるし、ベンはハルクみたいな怪力と耐久性があるのに、リーダーたるリードの「身体のどの部分も非常に長く伸ばすことができる」という能力は他の三人に比べても、またスーパーヒーローの能力としてもやや弱い気がするからだ。
日本の大魔神にインスパイアされたような外見をした巨大なギャラクタスが、ちっこいリードを、ニヤニヤしながら知育菓子のねるねるねるねか何かを伸ばすみたいにびよ~んと引っ張ると、ちっこいリードが「引っ張るのはやめてくれえ」とは言わなかったものの、あああああとか言って苦しむシーンがあり、彼の「すっげえ伸びるんだぜ俺」という自慢の能力に対して、作中でそれをおちょくるのはいくらなんでもあんまりだ。
わたしは、日本人が書いた漫画で、日本のみならず世界中で大人気のとある漫画を読んだことがなくそのメディアミックスも見たことがないので、当然ながらまったくその漫画のことを知らないのだが、ただしその主人公がゴムのように身体が伸びる能力をもっていることだけは、どこかで見聞きして知った。もしその主人公が大魔神みたいな巨大なやつに手と足をつままれて、びよ~んと引っ張られ、あああああとか言って苦しむ様子を描写したばあい、ああいった漫画のファンというのはキャラクター愛がマジになりがちなので、描写への反発がおこってもおかしくない。それを考えればペドロパスカルにしたって激シブな髭面で、とうていスライム知育菓子みたいに伸ばされるような外観をしていないわけだから、大魔神にびよ~んと伸ばされてあああああと叫ぶシーンは衝撃的であり、もしかしたら笑ったほうがよかったのかもしれないと後になって思った。
なにしろ今回のThe Fantastic Four First Stepsは、M3GANでミーガンのようにFANT4STICでファンタスティックフォーと読ませる、生意気なタイトルデザインでありながら、映画版マルウェアとか無価値以下とか、さんざんな酷評に加えゴールデンラズベリー賞を総ナメしてしまったFANT4STIC(2015)の汚名と悪夢から、ファンタスティック4を脱却させるという大きな使命をもった勝負作であり、この再起をかけたプロジェクトには日本も大いに関係してくる。
というのも大魔神の甲冑デザインは遮光器土偶であり、ギャラクタスのキャラクターデザイナーが大魔神を見ていないわけがない。また銀のサーフボードに乗って飛んでくる銀箔女の出身惑星は全裸(ゼン=ラ)である。さらに決定的なのは4だ。やつらは日本社会の禁忌が4であることを知っている。これはわれわれが13をタイトルにつけたハッピーエンドな物語の映画製作をするようなものだ。なめられてたまるかよ。
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時は1964年。古き良き時代、だけど今よりテクノロジーが進んでいる。徹底的に監修された舞台設定、製作費300億円。監督のMatt Shakmanの来歴は長いがほぼテレビ演出で映画はほとんどない。Madame Webを監督したS.J. Clarksonと似たキャリアであり、マーベルはでかいプロジェクトでも新しいクリエイターの発掘、謂わば刷新への期待、大胆な起用にひるまない。
人類か赤ん坊かという究極の選択へ落とし込むストーリーもいいし、俳優陣も手堅いところを揃え、若くしすぎてないのもいい。赤ん坊のフランクリンは言うなれば石ノ森章太郎の001だが、人間をつかっているのかVFXなのか解らないが、思い通りの表情を引き出した。あとは岩男と良い感じになりそうなNatasha Lyonneがよかった。このカップルの伸展が見たいな。
これでもかっていうお金をかけて、母と子と人類へもっていく展開にはぐうの音も出ない。予算がでかいから、のみならず、こんなのハリウッドじゃなきゃムリという映画だった。
このところのマーベルやDCのポイントは「あたらしくはじめる」ということだと思う。エンドゲームがその名のとおり、すべてをリセットさせた。それでサンダーボルツがはじまった。語尾に2も3も4もないスーパーマンがつくられた。本作のサブタイトルはFirst Stepsだ。言いたいのはその潔さである。
日本だったらあの感動をもう一度のばあい、しんだ古代進を生き返らせるという手法をとる。要するに同じようなことをやって柳の下の泥鰌を狙う。ところが、マーベルもDCも、ストーリーを通じてつくったファンに媚びることなく、物語もキャラクターも終わらせて「あたらしくはじめる」。ウケがよかったからまたやる、みたいなことをしない。スターウォーズにしても1977年の第1作目が「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」だったわけで、あらかじめビジョンと長期計画に沿った製作をする。潔い。
そういやサンダーボルツのポストクレジットシーンで、4のエンブレムをつけた宇宙船の到着を検知したのがチラッと映った。ピューが4の面々にからむのって想像できないな。呉越に期待だね。
imdb7.3、RottenTomatoes86%と91%。
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