劇場公開日 2023年1月6日

  • 予告編を見る

とべない風船のレビュー・感想・評価

全42件中、41~42件目を表示

4.5映像の美しさに埋もれないドラマが印象的な一作

2022年12月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

浮かんでいるのかつり下がっているのか、不思議な風船が印象的なポスターですが、物語の筋そのものはそれほど不可思議なものではなく、主人公達の心の行程を一緒に辿っていくドラマとなっています。

2018年の西日本豪雨災害が物語に大きな影を落としているのですが、その描写は非常に生々しく、この災害を取り上げると知らずに鑑賞した方は少なからぬ驚きを感じると思います。『すずめの戸締まり』よりも描写としては直接的かも。豪雨災害で被災された方など、災害映像を見ることに躊躇がある場合には少し心積もりが必要かも知れません。

東出昌大演じる憲二は、かつては近隣の人にも頼られるほど活動的な島の男性だったのですが、三浦透子演じる凛子が父親を訪ねて来た時には、心を閉ざし、ほとんど誰とも口を利かなくなってしまっています。その姿はどうしても『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)のケイシー・アフレック演じるリーの姿が重なってしまうんだけど、本作はさらにその先を描こうとしているところに非常に好感が持てました。

彼がなぜ黄色い風船を毎日物干し竿に括るのか、わりと早い段階で察しがついてしまうんだけど、しかしそれでも彼が風船にこだわる理由を明らかにする慟哭混じりの告白には非常に心を掴まれます。

瀬戸内の青い海と空、そして風船の黄色の対比が鮮やかで、映像的にも非常に印象的な作品です。それでいてやたら美しい多島美を長々と見せるのではなく、あくまで物語の背景としてさりげなく用いているところも良いですね。

作中ではほとんど名前しか登場しない凛子の母、さわ(原日出子)の存在感が際立っていて、むしろ彼女中心で物語が回転しているという語り口も見事でした!

実は物語は島に生きる人々、というよりもある時点から島に移り住んできた人々を中心に展開しているんだけど、「島外移住」にこだわった物語上の必然性があったのかな?このあたりは、もし機会があったら監督に伺ってみたいところです。

コメントする (0件)
共感した! 9件)
yui

5.0最愛の人を突然失った漁師と瀬戸内海の多島美と穏やかな海が織りなす物語。心に余韻の残るいい映画であった。

2022年12月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

監督:広島県出身の宮川 博至。製作:buzzCrow Inc.
瀬戸内海の島に移住し妻に先立たれた元教師の男性(小林薫)と、初めて島にやって来た娘・凛子(三浦透子)、その夫婦と親しい交流のあった漁師・憲二(東出昌大)。憲二は西日本豪雨で妻子を失い自分を責め人が変わったようになる。

島には住んだことのない凛子が重く心を閉ざした憲二と出会うところから物語が始まる。
人に死なれることと残された者。突然最愛の妻子を失った憲二がいつまでも受け止めることのできないその死。憲二が凛子との出会いで何かが変わっていくのだ。
凛子自身も自分の知らなかった母のことや、憲二の隠された苦悩を徐々に知ることで何かが変わっていく。

それらが瀬戸内海の多島美と穏やかな海、漁師や小学生との交流のなかで自然に、ゆったりと物語が進んでいく。大げさでもなく、早いカット割りでドラマチックに見せる訳でもなく。そこがいいのかもしれない。100分という時間であったが、長く感ずることはなくずっと惹きつけられて見ていた。所々に、子どもたちの愛くるしさや漁協の個性的な漁師たちのユーモアのあるシーンなどもよかったのだと思う。
タイトルの「とべない風船」。映画の中では憲二の自宅の物干し台に括られた黄色い風船がよく出てくる。この黄色い風船は単なる風船ではないのだ。

舞台挨拶で東出昌大がこれまででやったことがなく、とても難しい役どころだったというようなことを言っていた。その言葉が示すように、その悲しみ、憤り、無力感、苦悩、そして徐々に変わっていく様子は難しかったと思うがとてもリアルで素晴らしかった。
小林薫の落ち着いた存在感や浅田美代子の優しさもとてもよかった。
音楽も落ち着いていて心和ませる自然な曲であった。

全編広島ロケでスタッフも広島。有名な役者を使っての長編第ー作は全国でも是非多くの人に見てもらいたい映画である。

コメントする (0件)
共感した! 10件)
M.Joe