劇場公開日 2022年9月2日

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「これは確かにヘンな映画」地下室のヘンな穴 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5これは確かにヘンな映画

2022年8月29日
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鑑賞方法:試写会

笑える

怖い

その一軒家の地下室には、さらに下に降りる穴があり、そこを通ると「時間が半日進んで肉体が3日分若返る」という。不動産業者から奇妙なセールスポイントを教わった中年夫婦は購入を決断。だがこの穴の存在により、穏やかで大きな不満もなさそうに見えた夫婦の関係が、次第に変化していく。

一見、SF作品のような印象を受ける設定ではある。実際、地下室からさらに降りるのに、穴から出ると2階の部屋にいるし、確かに時間も12時間進んでいる。時空をワープする穴なのは間違いないが、“3日若返る”という微妙さがひとつの肝になっている。

この穴のほかにもう一つ、夫が勤める会社の社長の身体に関してもSF的な要素がある(これには意外な形で日本も関係してくる)のだが、それぞれの成り立ちや仕組みについて具体的な説明を期待すると肩透かしを食らう。それらは映画内世界の中で、たまたま手に入った便利そうなもの、人生をより豊かにしてくれそうなものとして、理屈を超越して存在しているかのようだ。うまい話には裏がある、とはよく言うが、地下の穴や社長のあれはそんな“うまい話”のメタファーと解釈することも可能だろう。

フランス・ベルギー合作で、尺は74分。不条理な部分もあるが、人間の欲望や他者との関係性などを風刺するスタンスも確かにある。一般受けはしないだろうが、ヘンテコな映画を偏愛してやまないマニアックな層には喜ばれるかもしれない。

高森 郁哉