ザリガニの鳴くところのレビュー・感想・評価
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家族全員から打ち捨てられた少女
湿地のさまざまな動植物が、目の前に生き生きとして存在する。原作を読んでいる時は、頭の中で想像していたが、その想像を上回る映像がスクリーンに映し出される。生物多様性の宝庫となっている湿地の美しい風景を余すことなく堪能できる。
法廷シーンでは、デヴィッド・ストラザーンが演じるトム弁護士が、検察側の証人が持つ偏見と印象だけの曖昧な記憶を、巧みに反証して法廷の流れを変えていく。そして、最終弁論では、陪審員に向かって滔々と語る。
「湿地の少女という偏見は捨てて、法廷で示された事実だけを基に公平に判断をお願いしたい」
原作を読んでいて、真相がわかった時、呆然としてしまって、その箇所を何度も読み返したり、伏線の張られた箇所を遡って探したりした。映像化されても、衝撃は変わらない。観客の意識はある方向に巧みに誘導されるし、あのタイミングで聞かされるとは夢にも思わない。
湿地に家族全員から打ち捨てられた少女を全力で応援したくなる。そんな物語でございます。
補足
オスを食べるホタルは、北米に生息するフォトゥリス属のメスで、他の種の蛍の明滅を擬態しておびき寄せるらしい。
もしかすると人間は自然界で一番歪な生き物かもしれない。だから“ザリガニの鳴くところ”では生きられないのかも。映画版のキーワードは『ホタル』『自然に善悪はない』。
(原作既読)①映画版には期待していたが、あの豊穣でかつ不思議な小説のダイジェスト版にとどまってしまい、やや期待外れ。
②原作は一言では形容出来ない小説である。一応ミステリーの体裁は取っているが、エコロジー小説のようでもあり、自然の中の人間を描いているようでもあり、自然と人間とを対比しているようでもあり、人間の世界の歪さをそれとなく描き出しているようでもある。このような小説がアメリカだけでなく世界的ベストセラーとなったことにある意味驚く。
③ただ、残念ながら舞台であるノースカロライナ州の湿地帯がどんな処なのか、行ってみない限りは文章ではなかなかイメージしにくい。それで映画版ではそれを目で見せてくれると期待していたが、確かに美しい映像ではあったけれども、それ程感銘を受けなかった。ラストクレジットを見ていると撮影場所は主にルイジアナ州ニューオリンズ辺りのよう。ノースカロライナとルイジアナとでは植生やそこに生きる動物相も違うだろうから残念。でもノースカロライナの海岸部の湿地帯は開発が進んで昔の面影は無いのかな。
④原作では感じ取れるカイヤの圧倒的な孤独感と疎外感とが映画ではそれ程伝わって来なかった。それが想像できれば物語の後半もより理解できるのだが。
人間の世界から孤立させられたカイヤは自然の中で生き、自然界の実相を知る中で彼女なりの生き方、考え方を持つようになる。それが人間の社会の通念と少々異なっていても…
⑤セックスシーンがやたらと多い。チェイスとのモーテルでのシーンは必要だったけれども、それ以外は他に描くことがあったように思う。
⑥カイヤは具象化するのが難しいキャラクターである。そういう意味ではデイジー・エドガー=ジョーンズは頑張っていたと思う。
⑦ハリス・ディキンソンのチェイスは少しイギリス的で上品だったと思う。原作のチェイスはもっと典型的な魅力的かつマッチョのオールアメリカンボーイでかつ甘やかされて傲慢なイメージだったから。
⑧ジャンピンとメイベルはほぼ原作通りのイメージの配役。原作と同じく映画でもカイヤを囲む苛烈な環境の中でほぼ唯一の“温もり”となっている。
⑨パパ役が『Any Day Now』のギャレット・ディラハントだったのはちょっと嬉しい驚き。原作ではハンサムだったとあるのでまぁ順当なキャスティングだろう。また、原作ではママはよく描かれていたが、パパの人物像の輪郭がいまいち掴めなかったけれど、映画版では生身の人間が具体的に演じることで“ああ、こんな感じだったのか”と良く理解できた。
映像が綺麗
最後には心豊かな気持になれる
予告を観る限りでは、ホラーサスペンスだと思っていた。
ところが、犯人捜しの謎解きへの期待は、見事に裏切られる。
ノースカロライナの美しい湿地帯で、ひとりの青年の死体が発見された。
湿地帯でひとり暮らす、「湿地の娘」と呼ばれる女性が容疑者に。
そのセンセーショナルなプロローグで、見事に騙されてしまう。
描かれているのは殺人事件ではない。60年代前半のアメリカの格差社会だ。白人の差別の対象は黒人だけではなかったのだ。白人による白人への迫害。容疑者の女性が受けた人権蹂躙、女性蔑視。女性蔑視を裏付ける男のDV。町の金持ちたちの暴挙と空虚。マイノリティはいつの時代でもマイノリティ。
数々の理不尽と魂の救済が、作品の底にしっかりと流れる。
理不尽に立ちはだかる弁護士役は、『ノマドランド』のデビット・ストラザーン。彼の存在なしでは本作は到底語れない。そして湿地帯の大自然と、そこに育まれた容疑者のコラボが結実。その映像美に予想外に酔いしれる。
最初の期待は裏切られたが、最後には心豊かな気持ちになれる。それは絶対保証できる。
戦慄
原作未読
2時間飽きることなくあっという間の観賞
ミステリーはミステリーなんだけど、一人の少女の成長物語として描写する場面がほとんどなので見易かった。
カイアの逞しい生きざまやジャンピンと奥さんの気遣いに心揺さぶられ
(カイアがしばらく留守にする前に店に立ち寄ったジャンピンの店でのやり取りは、カイアの悲痛な胸の内やジャンピンが心から心配してる苦しさが痛いほど伝わって涙無しには見れなかった…)
かと思いきやチェイスの死の真相をめぐっての緊迫感は続くし目が離せない面白さ。
カイア役の子はアンハサウェイを彷彿とさせる美しさでこれから活躍するんだろうなぁと期待。チェイス役のハリスは今までイケメン好青年の印象が強かったけど、今回は危なっかしいヤバそうな感が滲み出てて最初キングスマンに出てた人とは思わなくてうまいなと思った。
虐待や差別、過酷な環境の中で育った彼女だけど、自然の美しさと愛に支えられて生涯を終えられたと終盤安堵感に包まれてましたが、最後の最後戦慄が走りました。
最後カイアの語りの「補食」という言葉と(自然の中で育ち動物的な本質を知り尽くしてる描写がここで活かされる)テイラー・スウィフトがこの映画のために書き下ろしたという曲がいつまでたっても余韻を残します。
テイトはあれを見つけた時にどんなことを思ったんだろう。
いろんな感情が後をひく面白い映画なのは間違いない!
読んでから観た。 多分、観てたら読まなかったかも・・・。 読んでい...
鑑賞後、この映画のことばかり考えてしまいます。
ラスト驚愕!
湿地と周縁に生きる人の伝説
「正義」「善悪」とは何か?!
湿地帯で逞しく生き抜く女性の半生とともに描かれる重厚で美しいミステリー
「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で青年が遺体となって発見される。
殺人容疑にかけられたのは、町の人から疎まれ、嫌われる湿地帯の1人逞しく育った美しい少女・カイア。暴力を振るう父によって、家族がバラバラになり、6歳の時から学校へも通わずに、湿地の自然とともに生き抜いてきた。
法廷で語られる彼女の半生と、事件の真相、そして、ある青年との恋…少しずつ事件の真相が紐解かれていくが…。
ラスト、まさかの展開で最後の最後まで目が離せない。前のめりになって物語に引き込まれていく、あっという間の時間だった。
本作は、マイノリティに対する集団差別が大きなテーマとなっている。全体的には1人の女性の人生を通して描かれるミステリー作品ではあるものの、その中に法廷劇、ラブストーリーなどが掛け合わせた重厚な作品となっている。
ストーリー的にどうしても悲しみや怒りが込み上げてくる場面があるが、何度も映し出される湿地帯や海、浜辺の美しい景色がその感情をリセットしてくれたので、暗さより美しさのほうが大きい。
そして彼女に手を差し伸べる人たちも優しさにも救われる。
美しさの中には、絵になるキャストたちも含まれている。カイア演じたデイジー・ジョーンズ、テイト役のティラー・ジョン・スミス、チェイス演じたハリス・ディキソンが目の保養になる。
(湿地帯で暮らす世捨て人があんな美女なら誰だって恋に落ちるわな…)と、カイアが美人だからこのような展開になったんでしょーが。と、突っ込みどころはあるものの、映画としては満点でした。素晴らしい作品に出会えてよかった。オススメです!
令和を代表する歴史的名作、時間経過でさらに評価される気がする
基本的に恋愛物は苦手だし興味もないが
本格ミステリーという触れ込みなので視聴しましたが
この作品は贔屓なしに稀に見る傑作だと素直に感じました
その根拠としてはアメリカの善と悪というか闇とされる
・白人同士の差別、マイノリティへの集団迫害
対する善の部分は
・アメリカの美しい大自然
・健気な少女が大人へと成長する過程
が絶妙に描かれているからです
と言うのはミステリー色が強くなる良質な作品ほど
だんだんと感情移入をするので
結果的には残忍なシーンやトリックなどに目を奪われ
それ以外は強度や記憶が薄まってしまうのです
しかし本作「ザリガニ----」は主人公を苦しめる
父親や住民やボーイフレンドがどれだけ憎くても
その後に気持ちを晴れやかにする美しい自然美が
画面に登場をすると不快さが一瞬で消えます
これが日本の部落問題を作品にしたら
心が痛み居た堪れない気持ちにはなるが
美しさを感じるのは難しいです
主人公の女優が圧倒的に美しいという反則級のズルさもありますが
アメリカとは時々このような超絶作品を何気なく作り上げるので
どうしても映画ファンを止められないと思い直しました
最後の終わり方や裁判の進め方は個人的に少し不満もあり
満点評価から少しだけ下げましたが
ここは受け手の捉え方次第で大勢の人は不満ないでしょう
まとめると、誰よりも強く美しい主人公が逆境にも負けず
立ち向かい幸せな人生を掴む内容ですが
最後「んっ」と思わせるオチもあり
あっという間の2時間です
湿地の少女の物語。素晴らしい映像と彼女の衝撃的な人生と出会う。
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