劇場公開日 2022年11月18日

「もしかすると人間は自然界で一番歪な生き物かもしれない。だから“ザリガニの鳴くところ”では生きられないのかも。映画版のキーワードは『ホタル』『自然に善悪はない』。」ザリガニの鳴くところ もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5もしかすると人間は自然界で一番歪な生き物かもしれない。だから“ザリガニの鳴くところ”では生きられないのかも。映画版のキーワードは『ホタル』『自然に善悪はない』。

2022年11月18日
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鑑賞方法:映画館

(原作既読)①映画版には期待していたが、あの豊穣でかつ不思議な小説のダイジェスト版にとどまってしまい、やや期待外れ。
②原作は一言では形容出来ない小説である。一応ミステリーの体裁は取っているが、エコロジー小説のようでもあり、自然の中の人間を描いているようでもあり、自然と人間とを対比しているようでもあり、人間の世界の歪さをそれとなく描き出しているようでもある。このような小説がアメリカだけでなく世界的ベストセラーとなったことにある意味驚く。
③ただ、残念ながら舞台であるノースカロライナ州の湿地帯がどんな処なのか、行ってみない限りは文章ではなかなかイメージしにくい。それで映画版ではそれを目で見せてくれると期待していたが、確かに美しい映像ではあったけれども、それ程感銘を受けなかった。ラストクレジットを見ていると撮影場所は主にルイジアナ州ニューオリンズ辺りのよう。ノースカロライナとルイジアナとでは植生やそこに生きる動物相も違うだろうから残念。でもノースカロライナの海岸部の湿地帯は開発が進んで昔の面影は無いのかな。
④原作では感じ取れるカイヤの圧倒的な孤独感と疎外感とが映画ではそれ程伝わって来なかった。それが想像できれば物語の後半もより理解できるのだが。
人間の世界から孤立させられたカイヤは自然の中で生き、自然界の実相を知る中で彼女なりの生き方、考え方を持つようになる。それが人間の社会の通念と少々異なっていても…
⑤セックスシーンがやたらと多い。チェイスとのモーテルでのシーンは必要だったけれども、それ以外は他に描くことがあったように思う。
⑥カイヤは具象化するのが難しいキャラクターである。そういう意味ではデイジー・エドガー=ジョーンズは頑張っていたと思う。
⑦ハリス・ディキンソンのチェイスは少しイギリス的で上品だったと思う。原作のチェイスはもっと典型的な魅力的かつマッチョのオールアメリカンボーイでかつ甘やかされて傲慢なイメージだったから。
⑧ジャンピンとメイベルはほぼ原作通りのイメージの配役。原作と同じく映画でもカイヤを囲む苛烈な環境の中でほぼ唯一の“温もり”となっている。
⑨パパ役が『Any Day Now』のギャレット・ディラハントだったのはちょっと嬉しい驚き。原作ではハンサムだったとあるのでまぁ順当なキャスティングだろう。また、原作ではママはよく描かれていたが、パパの人物像の輪郭がいまいち掴めなかったけれど、映画版では生身の人間が具体的に演じることで“ああ、こんな感じだったのか”と良く理解できた。

もーさん