「リトル仁義なき戦い 青春闘争篇」雑魚どもよ、大志を抱け! 平野レミゼラブルさんの映画レビュー(感想・評価)
リトル仁義なき戦い 青春闘争篇
昭和末期の地方在住小学生男子による群像青春劇。
昨年の『SABAKAN サバカン』みたいに、全く世代じゃないけどノスタルジックさが感じられて、少年たちの微笑ましくも泣ける爽やか青春モノを想像していました。
……が、割と大概だった『SABAKAN』に輪を掛けて治安が終わっています。なんか小学生の仲良しグループどころか半グレみたいになってるし、暴力装置たる中坊がミカジメ徴収してるしで、気分はリトル『仁義なき戦い 』。でも面白かったです。
タイトルに「雑魚ども」とあるように、主体となる少年4人組はそれぞれ家庭に問題を持ち、周囲の悪い子供や大人達の偏見の的になっています。
瞬は母親が乳がんで闘病中で大変(越して来た当初はよそ者として白眼視されてたことも言及されてる)だし、隆造の父親は犯罪歴のある粗暴な元ヤクザ、正太郎は母子家庭で、トカゲの母親は変な宗教にハマって貧乏……と、ものの見事に全員が複雑な家庭環境。
ただ、それを跳ね除けるように4人はヤンチャで……というか、もうクソガキの領域であり、のっけから万引き・猫殺害未遂・オオサンショウオ虐待諸々とやっていることが凄まじい。
コンプライアンス!!ともなりますが、まあオオサンショウオ虐待を除けば、全て駄菓子屋のババアがカスなのが悪いのでままええか…となる人心の乱れのデフレっぷりよ……シンプルに治安がゴミ。
悪業三昧に至るカメラワークはダイナミックな長回しで映し取るなど、滅茶苦茶惹き込まれる映像表現をしていて面白く、あまり気にならない雰囲気にもなりますけどね。
んで、この主演の悪ガキどもの他にも、対立する別の悪ガキ一味がいたりするんですが、そいつらは元締めである不良中学生に上納金を払うためにカツアゲに励んでおり……ともなると、治安が終わっているとかそういう次元じゃないんですね。
もう完全にヤクザ社会の縮図なんだよなァ!!少年青春映画の枠組みで、東映やくざ映画を展開してるんですよ。
主人公側は親が元ヤクザな上に喧嘩が滅茶苦茶強い隆造がいて、彼がそれこそ菅原文太のように仁義にも厚くて頼もしい存在だから他のグループとの拮抗状態を保てている……ってのは本当に70年代の東映映画で観た光景なんだよね。
途中から転校してくる小林とか、イキってるけどその実態は田中邦衛みたいな調子の良い蝙蝠野郎だったり(本人は『あぶない刑事』の舘ひろしか柴田恭兵を気取ってるのに…)どこからどこまでも『仁義なき戦い』の文脈が当てはまってしまう。
ただ、主人公の瞬はグループではNo.2を気取りながらも、仁義のNo.2たる梅宮辰夫には程遠く、良くて拓ボンくらいの雑魚にして弱虫です。悪ぶってはいるけど「暴」は基本的にマブダチの隆造頼みで常に虚勢を張っており、親から強制された塾通いを嫌がる等身大の子供。
基本的にはクソガキの類ですが、勉強が出来るようになると嬉しくなっちゃったり、同じ塾に通う西野と共通の趣味である映画を通して仲良くなったりといった、共感できる子供っぽさを垣間見せてくるので作品内で一番感情移入しやすいです。
一方で「雑魚」であるが故に、負の側面も多く抱えており、母親の乳がんが再発して自暴自棄になるほか、頼りにしている隆造相手に炸裂する嫉妬やコンプレックスといった弱さが、時に痛々しく突き刺さりもします。
特に西野がカツアゲにあってるところを見逃がしてしまう瞬の弱虫で卑怯な側面が強く出てくる一連の描写はかなり生々しいです。
せっかく仲良くなってしまった西野をみすみす見殺しにして転校させてしまった罪悪感、グループ内で一番下に見ていたトカゲが勇気を出したことで際立つ自身の弱さ、そしてその事実が知れ渡って悪くなっていく立場……皆で映画を撮ると約束しただけに、果たせなくなった虚しさや哀しさに居た堪れなくなります。
そんな状況でも庇ってくれる隆造の優しさに「バカにしてるのか!」と逆ギレしてしまう心理描写の変遷も丁寧。
当の強い存在である隆造も、家庭内では元ヤクザの親父に脅かされ続けているなど、皆の立ち位置が見方によって変わっていくってのは徹底されています。この隆造の親父にしても、自分の経歴のせいで冷たく見られる隆造を影では気にかけており、それでも友達でいてくれる瞬とその家族に感謝の言葉を述べる側面があるといった具合に多面的な人間模様を描写してくれる。
そういった様々な一面の中で、長所をヒロイックに描き出してくれるのが瞬が愛した「映画」なんですね。転校した西野から送られてきた台本は、そんな瞬を主人公に据えてくれていて、それを読むことで奮起していく…という流れは素直に熱いです。
そこにやくざ抗争めいた元締めの中学生との決闘なども絡めだして、弱虫たちのリベンジマッチへと帰結していく流れも綺麗に出来上がっていました。
不良中学生が恐れられていた割に、小学生達が一致団結すれば倒せる辺り、思ったより弱かったですが、まあ年下の弱者を子分にしてお山の大将気取ってるようなヤツなんてそんなもんでしょう。
抗争前に瞬と隆造がお互いの弱さをぶつけ合っていく場面は白眉。
これまでも印象的な長回しを多用していましたが、この場面に関しては本作で演技経験を重ねていった2人の子役の本意気が熱量を伴って伝わってきて泣けてきました。真の勇気とは戦いにおいて強さを見せつけることではなく、仲間の前でも弱さを曝け出すことにあるんですよね。
そこをくぐり抜けると願いが叶うと言われている「地獄トンネル」を終盤に活かしたり、様々な小出しにしてきた要素を回収していく作りも良かったんですが、群像劇っぽくしているのに結局主要人物2人の関係性へと小さく収束していく足立紳脚本でありがちな部分は無きにしもあらず。
不良中学生戦後にあっさり仲間になるなど変遷が唐突なキャラや、そもそも出番が少ないキャラも目立つのは気になるところ。
あと細かい部分なんですが、隆造を皆で見送るクライマックスの場面。あそこは普段から隆造を気にかけていた瞬の母ちゃん以外の大人は要らないかなァ……正直、あの場にいた先生とか、西野へのいじめを全く感知してなかったというアレな部分が目立つ大人なので、出しゃばってくるなよの気持ちが大きかったんですよ。
そもそも子供の成長の物語として描いているんだから、大人は邪魔まで感じてしまったかな。
そういった若干引っ掛かりを覚える散漫な部分もあるのですが、全体的には完成度が高い作品と言えるでしょう。
悪ガキどもの日常の中に確かな感動と爽やかさがあり、さらにやくざ映画のエッセンスすら漂っている物語運びは個人的に大好物なんですよ。
大きな危機を前にしての弱虫からの脱却、すなわち“成長”こそ僕が愛してやまない青春映画の醍醐味なのですから。