「HEROを2回見た方がましだった」映画 イチケイのカラス みなとさんの映画レビュー(感想・評価)
HEROを2回見た方がましだった
ドラマは未視聴。予告が面白そうだったので見てみた。
ツッコミどころの多い内容だったなと思う。
ネタバレ含めて長くなってしまったが、読んでもどうか引かないでほしい。
シキハマという会社の、岡山にある工場では、地元のほとんどの人間が関係している。トヨタと豊田市みたいなものだろうか。
そんなシキハマ岡山工場から排出される物質が、有害物質に指定され、法による規制を受けるも、環境基準をクリアすることができない。そのため、すでに有害物質による住民被害は出ているものの、地元経済の根幹となっている工場を守るために、環境基準をクリアできないことを地元住民全体で隠ぺいしようとする。そんな隠ぺいされた事実を暴こうと、黒木華が奔走するという内容。
その有害物質は劇中ではPFOMとのこと。おそらく現実のPFOS・PFOAを指していると思われる。劇中では、工場敷地内の土壌がこの物質ですでに汚染されていることから、工場の人間は、ばれないように汚染土壌をドラム缶に詰め、船で運ぼうとする。しかし、船までトラックで運ぶ途中でドラム缶から土が道路上に漏れ、それが風によって巻き上げられたことで、乗用車を運転していたお年寄りの女性の視界がふさがれ、女性は物損事故を起こしてしまう。そんなこんなで、ドラム缶が船に積まれた後も、船員がドラム缶から漏れた土を吸引し、意識障害を起こす。そして、航行していたイージス艦と衝突。土壌運搬船は沈み、船員は全員死亡する。
PFOMの有害性がどれほどと定義されているかは不明だが、しみ込んだ土壌を吸引したことで、数時間後に意識障害を起こすほどの物質なんて、それこそシアンやヒ素などならわかるが、そんな危険な物質が最近まで規制されてこなかったなんてこと自体ありえないだろ、と思ってしまう。そもそも工場敷地内の土壌なんだから、そこまでの有害性なら、そこで日常的に働いている従業員にはもっと被害がありそうなのに、劇中では数人程度。しかもそれだけの有害性がある物質を運搬しているとわかっていながら、船長はマスクもしていないで積み荷を確認し、その時に吸引。まんまと意識障害を起こして、沈没している。
あまり詳しくないが、そもそも汚染された土壌の処分って、国内の最終処分場じゃないの?と思う。船でどこに運ぼうとしていたのだろうか。しかも結局は、それほどまでに危険な物質を含んだ土壌が海に投棄される結果となっている。地域住民は生活のために仕方ないと考えるとしても、近隣の自治体からすれば、瀬戸内海が汚染されるわけだから、たまったものではないだろう。しかしそんな描写はない。まあでも蛇足かもしれない。
劇中では、親会社にPFOMが規制されたことから、規制をクリアするための補助を願い出るも、工場内でどうにかしろ、と言われてしまう。一つの町の経済を支えるほどの規模を持つ工場を抱える企業が、そんな態度なわけがないよなあと思う。規模が大きいほど環境には配慮するし、工場よりも本社のほうが外面を気にするのが一般的であるため、リアリティにかける。ましてやISO14001を取得している企業である。
地元住民の持つ井戸水が汚染されているという証拠を提出した黒木華に対し、裁判長の竹野内豊は、工場が地下水汚染の原因であることを調べるように黒木華に命じる。ここで本当ならば、帯水層までボーリングして地下水調査を行って、数値が周辺住民の井戸の数値よりも高いかどうかを調べるだろうところを、なぜか金がないからといって、黒木華本人が、スコップ持って一生懸命掘っている。しかも、普通工場敷地はアスファルト舗装されているから、黒木華が掘っているのは工場敷地の外と思われる。シキハマの、地下水汚染の原因が弊社かどうかわからないではないか、という主張に対する反論根拠を調べるわけだから、工場の周囲の土が汚染されていることが分かっても、それが地下水汚染の原因であるという証拠にはならない。
話は変わるが、シキハマが船で運搬しようとした汚染土壌も、工場敷地内のアスファルトを引っぺがして、掘った土を持って行ったのだろうか。なんだかこっそりやるにしてはリアリティの薄い話である。
また、物損事故を起こした女性の車から、汚染土壌を見つけようとする際、ジャッキスタンドで持ち上げた車の下に潜り込み、なにやら探知機みたいなものをあてると音が鳴り、その物質が含まれた土壌があることがわかる、という描写がある。盗聴器じゃあるまいし、化学物質を一瞬で判別できる手ごろな探知機なんてあるのだろうか、と思いながら見ていた。
本来土壌や水の環境法は、その自治体が規制のために検査等の規制を行うものだと思われるが、劇中では行政による規制の話が全く出てこない。工場・町VS司法で終わっている。町ぐるみで隠ぺいしていたという中に、役場も含まれているものだと思われるが、あまりにも蚊帳の外である。
別にリアリティがないなあと思うところが多くとも、内容が面白ければ個人的にはいいのだが、肝心の内容もあまり面白くない。やっぱりHEROのキムタクみたいな、それこそヒーローが華麗に問題を解決してくれればいいと思うのだが、この映画にはそれがない。つまり誰もあんまりかっこよくない。ただ、おそらくこれは事前にドラマを見て、こういう世界観の話だということを把握していなかった私が悪い。
竹野内豊は職権で調べようとするも、国家に阻まれて以降は、自らは無理に調べようとせず、裁判において、粛々と裁判長業務を行うにとどまる。一応裏で漁師と仲良くなり、そこから明らかになったこともあったが、そこまでフィーチャーされていない謎をさらっと明らかにしたくらいで、あまり印象がない。黒木華はなんか頑張るけれども、一つ一つの行動に疑問を感じながら見ていたので、いまいちすっきりとしない。斎藤工は行動がブレブレ。黒木華に途中で影響されるわけだが、それにしては影響されるところの描写が弱い。襲われる描写も、取ってつけたようで心が動かない。ただ、自転車の伏線はよかった。
イージス艦の航海記録の紛失。工場ぐるみでの何かの隠蔽。放火の犯人。殺人の犯人。すべてが同時進行的に行われ、それぞれの深堀りがないせいで、一つ一つが種明かしされても、そもそも引きがないからあまり驚かない。
一度見たHEROをもう一度見た方がましだった。