「カラスは追う、その先の真実」映画 イチケイのカラス humさんの映画レビュー(感想・評価)
カラスは追う、その先の真実
⚫︎入間さん
いつもは飄々としてふわり穏やか。でもたまにみせる真剣な目。誰もいないところだけでちらりとみえる感情の機微。そのコントロールの軽やかさ、鮮やかさ。
独特の深く穏やかな声が緩急あるシーンのそれぞれに重厚に響き与える旨み。
天性を演技していると言うより、竹野内さんの天性がはまっているのか。ピッタリだ。
そして、自分が明らかにひとつ上手(うわて)、いやそれ以上なときも相手に対する敬意が必ず根底にあるところが入間さんの人間的魅力だなと思う。
きっとそれが関わる人たちを納得させる流れにする所以だろうと。
よきバディになりそうな坂間さんのことは、成長や誠実さ、仕事への覚悟をみのがすことはなく認めて、それを信頼という大きな懐のなかで見守っている。
ここぞと言う時に原点から目をそらさずにストレートに対峙する姿にまたひとつ人間愛がみえる。相手が誰であってもだ。
〝悩んで悩んで悩み抜きなさい。その先に真実がある。〟〝論破はいけない…こわい顔もいけない。〟という言葉があったが、間の取り方や口調がチャーミングでユーモラスで内容はきちんと厳しい。意味の深い言葉だった。
⚫︎坂間さん
正義感、実直さ、行動力。
自分の仕事に信念と若さという情熱の芯を曲げることなく怖がらずにあたっていく頼もしい姿にはうらやましささえ感じる。いつも慕ってくれてた町の人々に、裏切られたかたちになってもめげずに自分を保ち、嫌がらせをうけても前を見据えるきりりとした顔には強い意志が宿り毅然としてうつくしい。アパートを燃やされた晩、月本さんの誘いを断り、入間さんのお宅に泊まらせてもらう場面は可愛かったな。扇風機にゆらゆらする布の間仕切り、枕元のきいろいひかり、嘘寝のいびき、子ども仕様のサメの寝袋に半分入った姿。入間さんから坂間さんに伝わるあたたかさがたくさんあったし、坂間さんへの揺るぎない信用と安心感もみえた。天然の明るさと愛嬌も相まったその素敵なキャラクターを黒木さんは寸分の狂いなくイメージさせてくれていた。
⚫︎本作の印象的な始まりと終わりのシーン。
【仄暗い工場の敷地内。冷たい夜の雨に濡れ佇む一台の頑丈そうな自転車。】
それが見えた始まり。
ここでなにかが起きてしまうという嫌な予感をさせ小さくうごめくような不安をふつふつとわきあがらせる。
そして終わりのそれ。
一瞬の風のように現れ坂間さんの頬の温度をほわりとあげさせ、また風のように無念のうちに旅立ってしまった月本さんそのもののようにみえた。
月本さん、亡くなった妹とおなじにおいのするまっすぐさを坂間さんにみていたのだろう。
今となっては、2人乗りの自転車をしゃかりきに漕ぐ姿は妹に似た坂間さんの正義感を心のなかで応援し勇気付けたかった兄のようだった。
そして遺言になってしまったが、ふたりの約束が果たされたのが救いだ。忘れえぬものを得たことは、きっと坂間さんの今後に寄り添う何かになるだろう。
事故や裁判の流れのハテナはあるのかもしれないのだが、もともとよく知らない分野なのでそれは隣の座席あたりに泳がせたまま…
それでも、わたしには人間の心を問う話として胸打つことばと表情にたくさん出会う部分が感じられる豊かな味わいある作品だった。