「全部、母親が悪い。この母親には嫌悪しかない。」エゴイスト ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)
全部、母親が悪い。この母親には嫌悪しかない。
大学のサークルで同性愛者の先輩がいた。
顔は、芸人のPOISON GIRL BANDのヒョロっとしたツッコミの方の、吉田さん似で、
もう少しシャキっとさせた感じ。
容姿や佇まいは、山咲トオルのまんま。
常に姿勢が良く、服のオシャレのセンスがあり、
髪も短く立たせた金髪で、たまに赤にしたり青にしたりと、
ただ立ってるだけだと、いかにもモテそうな雰囲気。
ただし、喋るとオネエ言葉になるので、
会話すると、あ〜そういう事かと感づく。
基本は私ら男子のグループにいるが、女子力が高いので、女子とも仲が良く、
男女の橋渡し的なポジションにいて、周りに人が多くいた先輩だった。
でもたまに一人でいると、いつも淋しげな表情をしていた。
合宿の打ち上げか何かの飲み会で、学生ゆえに金が無い、みたいな話題をしてた時に、先輩は、
「ボクはねぇ、高校生の時に売りをやってたの。だから貯金はいっぱいあるの。」と言っていた。
田舎から出てきた世間知らずの貧乏学生な私は、何の事だかさっぱりわからなかった。
売りってなんだ?フリマで物を売ってたって話か?
あ〜先輩は社長の息子だから、会社商品か何かをくすねて、売り捌いてんだなあ。
と勘違いしていたくらい、バカだった。
あとで同級生に聞いたら「売り」とは、
オジサン達を相手に性的なサービスをしてお小遣いを貰ってる、
援助交際みたいなやつだよ、と聞いて一瞬驚いた。
驚きはしたが、女子の援助交際とはまた状況が違い、
なんだか凄く未知でオトナな新世界の存在を、知った気がして、
逆に先輩を大人びた世界を知ってる男だと、見直したくらいだ。しかも高校生で!
悪い事ではあるが、他の先輩と違って、
その先輩がやけに気前良く奢ってくれる、謎やカラクリも解けたし、
なによりも、貧乏学生ゆえ、金払いのよい先輩には今後も付き従う方が得策だと、
打算的ではあるが忠誠心も芽生え始め、
より一層つるむようになった。
よくよく考えたら、売りは過去形ではなく、現在進行形だったと思われる。
直接聞いたことは無いが、だって田舎より東京の方が需要ありそうだし、
本当に金だけはあるのが、服装を見ればわかるからだ。
今もやってないと辻褄が合わないくらいのオシャレ具合なのだ。
なによりもまず、性的処理に好都合だろうとも思った。
身の回りから同じ性的嗜好の人を見つけるよりも、売りをしてた方が、
オジサン相手ではあるけど、性処理はできるではないか。
少なくとも、金も無い、モテもしない私らよりは、遥かに性処理している!
羨ましさと嫉妬に狂った当時の私は、
売りをしてるであろう先輩に、意地悪な質問をした。
「先輩、愛ってなんですかね?」
(^O^)/
先輩は黙って遠くを見つめていた。寂しそうな顔して、
女性が吸いそうな細長いタバコの煙をユラユラさせながら、何も答えなかった。
私は先輩をどうやら傷つけてしまったらしい。
m(_ _)m
この映画は、男性同性愛者の主人公が、
パーソナルトレーナーの傍ら、「売り」で生計を立てている年下と恋仲になり、
売りを辞めさせる代わりに資金援助する、というお話。
鈴木亮平も宮沢氷魚も、難役を体張った熱演でホンモノのゲイカップルにしか見えなかったが、
終盤のストーリーは、あまり好きな展開にはならなかったなあという感じだった。
ここからネタバレ。怒りモード。
宮沢の母親役が阿川佐和子だったのだが、この母親が諸悪の根源に見えてしまった。
普通はそう解釈しないのだろうが、この母親の依存心の強さ、母としての弱さが、
バッドエンドへ向かう原因に見えてしまい、
話の本筋を素直に受け入れ難いものにしていて、イライラしてしまった。
おめ〜が情けねえから息子が死ぬんだよって、怒りすら沸いてくる。
鈴木亮平が宮沢氷魚の「売り」を辞めさせる為の金銭支援が、
宮沢を死に至らしめ、
宮沢を多忙にさせたゆえに、母の末期がんも早期発見できず、
結果的に自分のエゴのせいで母子二人を死なせるに至り、
主人公が贖罪できず苦しむストーリーゆえの「エゴイスト」なのだろう。
だが、金銭支援受けて死ぬくらいなら、その母子家庭は元々詰んでんだよ、ぐらいにしか思わなかった。
むしろ、母親のせいで鈴木亮平が苦しんでいる。
この母親が子供を産まなきゃよかった。
バカな亭主と結ばれなければ良かった。
病弱になった時点で姿をくらませればよかった。
と、母親をなじる言葉しか見つからない。
私が歪んでいるのは自覚している。ただ、
子供の不幸は全部、バカ親のせい。
子供が歪むのは、親の責任。
そういう捉え方しかできない、私のおそらく偏ってるであろう主義や思想が、
ことごとく母親への軽蔑へ繋がり、
ついには他人の鈴木亮平にまで阿川母の毒が蝕んでいると思えてきて、
嫌悪嫌悪嫌悪なラストだった。
ほんと気分の悪い映画。そんな風にしか感じない、自身の器量のなさにも自己嫌悪。
良かった演者
鈴木亮平
宮沢氷魚