カムイのうたのレビュー・感想・評価
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北海道旧土人保護法
明治時代、金田一京助氏の指導を得て、アイヌ民族に古くから伝わるユーカラ(神謡)の大和言葉への翻訳に力を尽くしながら、19歳で夭折した知里幸恵さんの物語です。
「おそらくは・・」と、文部省推薦みたいな清く正しいお話を予想していたのですが、とんでもありませんでした。彼女が翻訳に打ち込んだのには、当時のアイヌ民族への圧政・文化搾取が時代背景にあった事をしっかり描いた作品でした。
「これは彼女の事を知らなくては」と、知里さんの訳した「アイヌ神謡集」と日記・書簡集「銀のしずく 思いのまま」を読んだ。日本語として豊かな文章であるだけでなく、その真摯な取り組みに背筋が伸びる思いがした。また、映画の最後にも紹介される生前の彼女の写真を見ると、本当に可愛らしいお嬢さんなんですよね。生死は人知の及ばぬ事とは言え、切ないなぁ。
また、アイヌ民族の大和同化への法的根拠となる「北海道旧土人保護法」という差別感丸出しの法は1997年まで残っていたというのですから、アイヌの人々が如何に忍従を強いられていたのかが分かります。それは、沖縄と本土の関係のカーボンコピーにも見えるのでした。
アイヌの誇り
どうしても観たい映画だったので
公開しているインディーズ館へ行ってきました。
私は十代の頃からアイヌの文化·歴史に興味があり
当然ながらアイヌ神謡集も持っていまして、
この映画はアイヌの事、知里幸惠さんの事について描かれる作品だったから観たかったのです。
主人公の北里テル(知里幸惠)役の吉田美月喜さんをはじめ、キャストの皆さんの演技も素晴らしく
島田歌穂さんの歌もとても魅力的です。
鑑賞して良かった。
心に残る映画でした。
この映画は、もっとたくさんの劇場で上映され、たくさんの人に鑑賞してほしい作品です。
無知から生まれた偏見
合ってるかな?セリフの中で印象的だった。
アイヌ文化についてテレビ番組が放送倫理問題されたり、政治家が馬鹿にした書き込みをしたなどで一時期炎上したりしてたが、よくわからないままだった。
漫画では「ゴールデンカムイ」が大人気で映画化になったのを見たが、偏見や差別はなかったと思う。
平等を掲げている日本にもこんな黒歴史があったということを、わかりやすく伝えてくれた作品。
エンディングの「カムイのうた」は悲しくてきれいな歌だった。
アイヌ語は、口承のみで、文字が無いもの。 東京の民俗学者に説得され...
アイヌ語は、口承のみで、文字が無いもの。
東京の民俗学者に説得され、記録に没頭する日々。
アイヌ神謡集を完成させたその夜に、心臓病で他界。
とても切なく重たい物語、初見だと動揺します。
迫害シーンが強烈で
書籍の成果、後世のアイヌ地位向上も、手厚い描写があれば...
アイヌ文化を後世に伝える意義のある作品
実は観るかどうかを当日になるまで悩みました。
それほどモチベーションがなかったというのが本音です。
ただ、私は中年な現在でも勉強不足で知らないことが
多々あり、映画で社会問題をちゃんと知ることが
あるので、本作もそこに期待して観る決心をしました。
冒頭からヘビーなアイヌの方々の置かれた状況を見るに
非常に心が痛み、また、沈むような描き方で
この救いのない感じでやるせない気持ちになったのですが
そこに現れたのが加藤雅也演じる兼田教授。
彼の熱いアイヌの人々や文化への想い・リスペクトが
吉田美月喜演じる主人公テルの心に響き、
物語を大きく動かしていきます。
かなり切ないラストではありますが、
アイヌへのリスペクトと文化を後世に伝えるという
軸はブレずに着地し、じんわりと心に沁みました。
島田歌穂じゃなければ演じられなかった役であることや
清水美沙の感情のこもった演技も素晴らしかったです。
私としては、楽器ムックリの音が良かったです。
今だとシンセサイザーで出すような音で
実にアナログにもかかわらず、デジタルっぽい音なのには
興味が惹かれましたね。
終始重い空気感が漂うので、
フィジカル的に元気なときに観ることを推奨します。
前半、ただただ苦しかった。
女学校(?)の場面など、もう目を背けたくて、ただただ苦しかった。
大学の先生夫婦がよい人で、ほんとによかった。
高校まで、日本は単一民族の国家とばかり思っていた。大学でそうでないことを知り、「そうなんだ」と、思ったことを思い出した。ただ、その頃、アイヌ問題に興味はなく、この映画を見るまで、アイヌの人たちのことを考えたこともなかった。
映画のでき云々を置いといて、この問題に気づかされただけでも見る価値があった。
さらに映画としての魅力を高めれば、若い人たちを含めて、もっといろいろな人たちにアピールできるのではないだろうか。
現国会議員にも、この問題の認識において、とんでもない人がいるが、いろいろな人が、もっとこの問題を知るべきだと痛感した。
見れてよかった。
酷い差別とイジメに耐え、アイヌの伝統文化を文字で残した
大正6年、北里テルはアイヌで初めて女子職業学校に入学したが、差別といじめに遭い、学業優秀で副級長だったのに級友に選挙で落とされ辞めさせられた。そんな時、アイヌ語研究の第一人者である東京の兼田教授が、テルの叔母イヌイェマツのもとへアイヌの叙事詩ユーカラを研究に来た。テルは教授からノートを送ってもらいユーカラをローマ字で書き写し、日本語訳にする事を勧められ、実践してそれを教授に送っていた。その素晴らしさに感動した教授はテルを東京に呼び、本格的に活動することになった。そして・・・という実話に基づく話。
アイヌ民族が文字の無い中、口頭で伝承してきたユーカラをアイヌ神謡集として日本語訳した実在の知里幸恵の人生を描いた作品との事。
当時、アイヌは人と犬の混血とか訳のわからない事を言われ差別されてきた様子が随所に見え、悲しくなった。
殴られ、服に石を詰めて川で死体となって発見された妹のように可愛がってた女の子が理不尽に殺されたシーンは涙が出た。
そんな差別を受け、和人に親族が酷い目に遭ってきた中で、努力して勉強し、ローマ字と日本語訳でアイヌの伝統文化を残したテルに感激した。
19歳で心臓の病により短い一生を終えたのは凄く残念だった。
知里幸恵の本を読んでみようと思った。
テル役の吉田美月喜が自然な感じで素晴らしかった。叔母イヌイェマツ役の島田歌穂は歌も上手くて演技も素晴らしかった。
恥ずことなどない
近頃の「破戒」や「福田村事件」などといった、100年程前の日本で実際にあった差別社会を扱った作品はどれも傑作で、これらと同等のレベル、更には斬新な切り口で物語を展開するというのは、かなりハードルが高かったと思う。しかも、観客の目も肥えているからより難しい。比べるのは酷だが、差別はあってはならない、を社会に訴えかける作品として、上記の映画に勝っているものは無かったように感じた。
でも、アイヌ民族の文化や伝統の素晴らしさをもっと知りたい。この映画を通じてそう思えたのには、とても意味があると思う。本作で語られているものはほんの一部に過ぎず、アイヌにはまだまだ沢山の魅力があるはず。きっと女学生たちもユーカラを聴いたら考えが変わる。だから、無知って怖いなって思わされる。いじめるなんて、自分が何も知らないと大声で言ってるようなもんじゃない。バカだね〜、私たちの文化はすごいんだから、とそんくらい強気にいかないとね。恥じることなんてない。
主人公のモデルは知里幸恵という、アイヌ民族の減少に伴いアイヌの伝統文化が絶滅してしまう危機を、自身が翻訳・執筆した本の出版によって救った実在の人物。19歳とあまりの若さでこの世を去ってしまったが、その功績は偉大だった。吉田美月喜の演技は「あつい胸さわぎ」に引き続き良かったが、そんな女性の伝記映画としては、色々と足りない。加藤雅也の教授には心温まったが、せっかくなら出版し、世に知れ渡ったところまで見たかったな。悲しい物語として終わってるのは、ちょっと勿体ない。
人伝に聞きました事が・・・
北海道で入浴場に行った時にアイヌの人がと毛深いな~と
思い出しました?頬があったり眉が濃かったり等々、男優はアイヌ人種ポッイなと見た感じ似てると?
観光タクシーの人から聞きました、まだ繋がりがある人達はおじいさん世代から色々聞いてると
エンディングの島田歌穂さんの唄も凄すぎる
アイヌ民族への差別、悲しい過去、初めて見聞きすることも多かったです。役者の演技、凄い。思い返しても、圧倒されるばかり。ユーカラのこと、初めて知れて良かった。訳本を買って読んでみたいです。
島田歌穂さんの唄も参った。凄すぎる。エンディングソングも素晴らしい。映画館で聞けて良かった。感動のピークでした。
尚、映画の始まりは北海道の素晴らしい大自然の映像が次々の流れ、その素晴らしさに見惚れて、大切な語りの大部分を聞きそびれてしまったのが、私の失敗。気をつけろー。
19才😭
大正6年。
北海道の高等女学校は軍人の子女しか入れなかった。女子職業学校で首席。大正6年って、105年前。当時、東京でも旧制高等学校に入れる男子だって1%以下だったと思うから、すごい努力したんですね。差別と貧乏を克服する手段は男は軍隊に入ることしかなかった。酷いいじめが待っているのに。
差別、差別と言うけれど、侵略と迫害そのもの。
江戸時代にはドイツプロイセンが北海道の植民地化をすでに狙っていたらしい。明治になって、対ロシアの富国強兵政策。激動の時代とはいえ、アイヌのことは残念としか言いようがない。明治に制定された「北海道旧土人保護法」は分離隔離政策を正当化する悪法。「土人」ですよ。それがついこの前まで廃止されなかった事実をもっと知ってほしい。土地を奪われ、生業は民芸品のみ。中2のとき(50年前)に訪れた白老町の施設にいたアイヌの人たちはとてももの悲しそうだった。とても気楽に声を掛けられなかった。
東大の民俗学者も国威をバックに収集欲まるだしのえげつなさ。
それに比べて、文学部教授の純な熱心さには頭が下がる。
ターコイズブルーのアクセサリー。ネイティブ・アメリカンのそれを連想してしまいました。
カタクリの花がきれいでした。
島田歌穂さんの既婚女性の口のメイク。ちょっと笑うセールスマンみたいで怖かったけど、ちゃんとしているアイヌ人の厳しい貞操觀念の現れなんでしょうね。
島田さんの歌はさすがでした。
主演女優吉田美月喜さんは「あつい胸さわぎ」のときよりすごい存在感でした。よかったです。
19才でなんて。
大雪後の渋谷で鑑賞。
上映館少ない。
ゴールデンカムイ公開の半年前ぐらいに公開すればよかったのにねぇ
ちなみにウチのカミさんは耳垢がネバネバしている縄文人です。
島田歌穂、最高 歌う役だから出てきたんだろうけど、 歌わない役でも...
島田歌穂、最高
歌う役だから出てきたんだろうけど、
歌わない役でもたくさん引き受けて、もっと出てきて欲しい
ふとした表情とか、そんなところからして別格
一度は見て欲しい映画です。
久しぶりに映画館まで足を運んで劇場で観た映画。観れて、知れて良かった。
今後の北海道旅行では、海産物やスィーツだけではなく、そこに住む人々の歴史や文化背景、先住民族であるアイヌの方たちへの敬意をもって探訪したいと思いました。
生きる為に言語や文化を捨てなければならなかった、差別や苦しい労働環境など、胸がギュッとなる様なシリアスなシーンが多くありますが、心で受け止めたいと思いました。
自然豊かな北海道と民族と日本の歴史と
この映画は映画館で見ることができてよかった作品です。今時の映画館は音響もいいのですね!鳥がすぐそこにいるような声。
北海道に旅したことがあると、一層身近に感じられ、その自然美を残してくれてありがとう!な作品です。 旭川空港の近くでもヒョンと出てきたキタキツネにびっくりしたことがあったっけ、とか、朝夕の山並みの美しさに感動したことを思い出してワクワクしたり。(北海道にはそんなにすぐに行けないし、映画でもう一度観ようかなと、、、、、)
冬は現代人にとってさえ、厳しいけれど、今のような設備がない中知恵を絞って自然と共存してきたアイヌの方はどんな工夫をして生活をしていたのかしらん。。。。と鑑賞後にまた素朴な疑問。もちろん映画の中で生活風景は出てきますが、そこまではわからないので。
もう少し知りたいと興味が出てきました。 そういうことにも興味が出ます。
ストーリーは一人のアイヌの女性の苦難の多い人生、また民族自体が和人の支配の中でどう扱われたか。その中でも自分の使命を果たそうという気高い知里幸恵さんという実在していた女性に感動しました。
俳優さん方は皆さん素晴らしかったです。島田歌穂さんの歌も吉田さんの歌も良いですね。
独特の言葉がなぞなぞみたいな音で楽しかった。
実際には金田一京助先生だったという先生もよかったです。
清水美沙さんと加藤雅也さんの掛け合いがクスッとしてしまうところがあって和めました。
色々な見方ができそうな作品ですので、また見たいと思いますし、もう少し近くでも上映してくれないかしら???
北海道の自然はそのままの姿で。
文字を持たず文化を独特の節で歌うユーカラなどを用い口頭伝承してきたアイヌ民族。そのユーカラを初めて文字として残した実在の女性の物語。
この作品でユーカラの持つ意味や意義を知りました。島田歌穂さんのユーカラが素晴らしかったです。主人公のモデルとなった知里幸恵さんは差別を受けながらも、学びたいという気持ちを持ち続け後世に素晴らしい財産を遺した強くて聡明な女性で、演じた吉田美月喜さんの凛とした姿がとても合ってました。
ただ雄大な自然や動物の映像がなんかファンタジーみたいな世界観でこの作品には合わなかったと思います。ここはちょっと残念でした。
さてアイヌ民族と言えば同化政策によって結果的に数を減らしてしまったというのが一般的な見解で、私もそうだと思っていたし、そう習ったと思うんですけど、一方では数を減らしてしまったのは感染症が原因で、同化政策によってむしろ近代的な生活を送れるようになったという考えもあるってことをこの作品がきっかけで初めて知りました。北海道に行くことがあれば資料館とか足を運んでみたいなと思います。
多くの人に観てほしい素晴らしい作品
月曜の午前中の上映でしたがクチコミの高さの為か広めの席はほぼ満席でした。菅原浩志監督が手がけたアイヌをめぐる素晴らしい歴史劇です。アイヌ民族というだけで理不尽な扱いを受ける中、アイヌ民族の伝承文学を翻訳して後世に残した知里幸恵をモデルとした実話ベースの作品です。オープニングから北海道の美しく厳しい大自然が素晴らしい。悲しい事ですが開拓という名の侵略。先住民からの略奪と搾取、言語や文化を廃止させ民族同一化を図る。世界の歴史は略奪と征服の歴史であり文明の発展とともに世界規模で行われ、今でも一部の非民主主義国では行われています。日本でも北海道のアイヌや沖縄の琉球民族で行われてきました。本作でもこういった史実を元に悲しくも文化と民族に誇りを持って生きる人達とそれを助けようとする素晴らしい人々が描かれています。吉田美月喜 さん、望月歩 さん、島田歌穂 さん、清水美砂 さん、加藤雅也さん、皆さんとても素晴らしいお芝居でした。少しだけ不満はテルの状況時の駅のホームのシーンと兼田教授と小嶋教授の揉み合いのシーンの映像的演出は安っぽくて不要でした。
”カムイ”映画で知るアイヌの歴史
先日観た「ゴールデンカムイ」に続いて、”カムイ”繋がりで本作「カムイのうた」を鑑賞。ゴルカムはアイヌ文化を詳細に取材した上でエンタメに仕上げているけど、本作は実在のアイヌ民族の女性である知里幸恵をモデルに、彼女の19年という短い人生をドラマ化したものでした。時代的にも、ゴルカムは日露戦争直後の1900年代後半以降のお話を描いていましたが、知里幸恵は1903年生まれで1922年に亡くなっているので、ほぼ同時期のお話ということになります。
ただ映画の主人公は、知里幸恵という名前ではなく、”北里テル”と名付けられており、また「ユーカラの研究」や「アイヌ文学」などの著作があるアイヌ文化研究の第一人者であり、知里幸恵を東京に呼び寄せた言語学者の金田一京助も、”兼田教授”として登場していました。この辺り本名を使わなかったのは、フィクションを交えているという部分もあるでしょうが、知里幸恵の弟で、後に言語学者となり北海道大学の教授にもなった知里真志保が登場していないことや、作中アイヌの墓を荒らして遺骨や装飾品を盗掘させ、研究材料にしていた登場人物である東京帝大の”小嶋教授”や、アイヌ差別をする教師や軍人にも、恐らくはモデルとなった実在の人物がいるであろうことが影響しているものと勝手に推測したところです。
ところでゴルカムと本作を立て続けに観て思った疑問が、アイヌの人たちの名前って、いつから日本式になったんだろうか、ということ。1903年生まれの知里幸恵にしても、本作の主人公である北里テルにしても、日本式の「苗字+名前」となっていますが、アイヌの口承文芸の伝承者であり、北里テルの育ての親である彼女の叔母は、”イヌイェマツ”として登場しました。因みに”イヌイェマツ”のモデルとなり、1875年生まれの知里幸恵の叔母の名前は金成マツ、アイヌ名・イメカヌというそうです。アイヌ名がイメカヌ、日本名が金成マツなので、本作ではイヌイェマツにしたんですね。
で、ちょっとネットで調べてみると、明治政府がいわゆる”壬申戸籍”制度を施行した1872年以降、アイヌの人達も戸籍に編入されて行き、その過程で氏姓のないアイヌの人達に対して”創氏改名”が推進(強制というべきかな)されたようです。なので、金成マツ(イメカヌ)が生まれた1875年頃は、まずはアイヌ式の命名がなされ、その後戸籍を作ったために金成マツという名前が出来たのではないかと推察されます。ただ本作の登場人物であるイヌイェマツは、あくまでイヌイェマツであり、日本式の名前は登場しませんでした。創氏改名前後の端境期に生きたアイヌの人達は、アイヌ名で呼ばれることが多かったんでしょうかね?
因みにゴルカムのヒロインであるアシリパは、”不死身の杉元”に出会った1900年代後半において10歳から12歳くらいの年齢なので、1890年代後半の生まれと推測されます。従って、イヌイェマツと違って完全に戸籍制度が広まってから生まれたと思われる訳ですが、依然としてアシリパという名前でした。これまたネットで調べると、彼女の日本名(戸籍名)は”小蝶辺明日子”というのだそうで、そういう意味では戸籍制度が広まった後も、アイヌ名を名付ける習慣が一定程度続いたということなのでしょうか。
ただ1903年生まれの知里幸恵には、(ネットで調べた限り)アイヌ名がないようなので、徐々にそうした習慣がなくなっていったと解釈するのが妥当なのでしょうかね。
長々と映画の本筋から離れたことばかり書きましたが、勉強が出来た北里テルは、”土人学校”と呼ばれたアイヌ民族のための学校から女子職業学校に進学しますが、周りの差別にも遭って大変な苦労を強いられます。そんな中、アイヌ研究をする兼田教授がテルの下を訪れ、口承で伝えられた「ユーカラ」などの詩を文字に起こし、さらには和文に翻訳する作業を行います。幼馴染の一三四と恋心が芽生えるも、やがて東京の兼田教授の家に招かれて執筆を続けるテル。ようやく原稿が仕上がり、本の出版が決まった直後にテルは病死してしまうという悲しいお話でもありました。
本作の主題としては、アイヌ民族にこういう人がいたんだという記録映画的な側面を土台に、アイヌへの言われなき差別の実態を訴えた社会派的要素もあるものでした。また、作中イヌイェマツが唄う「ユーカラ」は、島田歌穂の歌唱力もあって非常に美しい曲であり、そうしたアイヌ文化を紹介する役割も担っていたと思います。
そうした点において、本作の意義は高く評価するものですが、肝心の物語性において、今ひとつ平板だったかなとも感じたところ。折角実名ではなく作品オリジナルの名前を使い、ある意味フィクションも織り交ぜていることを明示しているのだから、例えばテルと一三四との恋バナをもっとクローズアップして膨らませるなどしたら、もっと幅のある作品になっていたんじゃないかなと思いました。
さらに付け加えるとすれば、せっかくアイヌの話を映画化したのだから、アイヌ出身の役者さんを起用したらもっと良かったんじゃないかと感じたところですが、適役となる方がいらっしゃらないんですかね?
そんな訳で、本作の評価は★4とします。
魂の翻訳
文字を持たないアイヌ民族が神々の神話や英雄の伝説を歌にして口頭伝承してきたユーカラを日本語約した女性、知里幸恵をモデルにした話。
成績優秀で女子職業学校に通い始めた北里テル(知里幸恵)と家族達を中心に、当時のアイヌと和人の関係やユーカラ翻訳についてみせていくストーリーで、鎌田教授のモデルは金田一京助ですね。
奴隷のように扱われたり、墓泥棒をされたり、壮絶なイジメがあったり、当時はそれが当たり前とされていたアイヌに対する問題をみせるけれど、蔑んでみている人は今でも一定数いるし、世界をみたって人種差別はあちこちでありますからね…。
根拠無く人を蔑み迫害して悦に浸る人達は、それこそ自分が無知で無能であることを曝け出す恥ずかしいことだと気付いて欲しいけれど、そんなことにも考えが及ばないからたちが悪い。これは映画と直接は関係ないですね(汗)
そんな状況下アイヌ語研究者の兼田教授が女学校を出た才女でユーカラを歌える叔母のイヌイェマツのもとにやって来て、テルに感心感嘆する様はみていて無性に涙が…。
実話ベースではあるけれど、ドラマとしても温かさあり哀しさありととても面白かったし、ユーカラやアイヌ文化、そして当時の差別に興味を抱かせるとても素晴らしい作品だった。
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