「知里幸恵の文章の美しさ」カムイのうた 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
知里幸恵の文章の美しさ
「アイヌ神謡集」を著し、19歳の若さで亡くなった知里幸恵の生涯を描いた作品。知里幸恵のことは、いつか映画化されないものかと思っていたが、今回、写真の町・東川町が中心となってついに実現したことを、素直に讃えたい。
映画の中では、「土人・臭い」といった差別や偏見、和人への同化政策、墓泥棒まがいの遺骨収集、さらには厳寒の漁場での強制労働など、アイヌ民族が被った、目を背けたくなるような苛烈な差別と過酷な境遇が、しっかり描かれている。今更ながら、平成の時代まで「旧土人保護法」という差別的名称の法律があったことを思い起こす。
そうした中で、知里幸恵(作中では北里テル)が金田一京助(作中では兼田教授)と出会い、アイヌ文化がいかに優れているかを聞かされ、アイヌ民族としての誇りを取り戻すシーンには、胸が熱くなる。映画のプロローグとエピローグで朗読される、幸恵が「アイヌ神謡集」に書いた美しい序文が、幸恵の命をかけた願いと、この映画のテーマを、すべて言い尽くしているように思う。
出演者では、島田歌穂が光る。劇中のユーカラやエンディングテーマの美しさは、彼女ならでは。加藤雅也も研究一途な感じが出ている。
主人公と幼なじみの若手二人の演技は今ひとつで、二人の関係性の描写や展開もぎこちなく感じられるなど、作品としての完成度は十分とは言えないが、こうした作品が制作され、広く一般劇場で公開されるのは素晴らしいこと。多くの人に観てもらいたい。