「美しい心、美しい国の将来」金の国 水の国 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
美しい心、美しい国の将来
昨今の日本のアニメ、殊に恋愛要素絡む作品はイケメンや美少女が絶対条件。
イケメンに恋をし、美少女に一目惚れをし、夢物語を見る。
だから本作のキャラデザインは驚いた。
好青年ではあるが超絶イケメンではない。
何よりヒロイン。異例のぽっちゃり体型。
しかし、これが良かった。
見た目より心。本当に心が温かく優しくなる作品であった。
原作コミックでは“A国”と“B国”とされているらしいが、この映画化では“アルハミド”と“バイカリ”。
隣接する国同士だが、非常に仲悪く、争いが絶えない。それも雑草がはみ出てるとかゴミが入ったとか、犬のフンや猫のおしっこが…とか下らない些細な理由で。ここら辺、世の戦争を風刺。
両国、長所と短所がある。
アルハミドは商業国家で栄えている。が、人口過多で天然資源が枯渇している。特に水不足が深刻。“金の国”。
バイカリは豊かな水や自然に恵まれている。が、争いでルートが絶たれ、貧しい。“水の国”。
先代王時代に一旦停戦。ある約束が交わされる。
アルハミドはバイカリへ、国一番の美女を嫁がせる。
バイカリはアルハミドへ、国一番の賢者を婿入りさせる。
だがそれぞれに送られたのは、因縁の犬と猫。
再び火花バチバチ。きっかけさえあればまた争いに…。
そんな時、国境の近くで…。
送られた犬猫をたまたま引き取ったのは…
アルハミドの王女、サーラ。
バイカリの建築士、ナランバヤル。
サーラが引き取った犬がバイカリへ。森の中の穴に落ち、救出に困っていた時…
引き取った猫を連れて散歩していたナランバヤルが通り掛かり、救出。
恋愛ものあるあるの“運命の出会い”。
定番なら胸キュンポイントなのだが、先住の通りのキャラデザイン。
超絶イケメンではない青年とぽっちゃり体型のヒロイン。
サーラは王女ではあるが、アルハミドには王女がたくさん居て、第93王女。容姿端麗な姉たちがおり、自身の姿にコンプレックスを抱いている。非常におっとりとした性格。
ナランバヤルはお調子者で口が達者。でも、気持ちがいいくらい気前のいい性格。
お互い初めて会った時、容姿に関して気になる所は一つもナシ。寧ろ、中身。
第一印象だけで分かる。サーラの汚れ一つない純真無垢さ。一見いい加減そうに見えて芯がしっかりしているナランバヤル。
異色のキャラデザインと思ったのもほんの最初だけ。見ていく内にどんどんどんどん、サーラが堪らなく愛おしく、ナランバヤルがカッコよく見えてくる。
“婿”を迎えたサーラ。今度姉たちに紹介しなければならない。でも、“犬”だし…。
そこでお願い。お婿さんのフリをして頂けませんか…?
突拍子もないお願いに驚くナランバヤルだが、このままバイカリに居ても仕事や生活に恵まれてる訳じゃないし…。人助けのつもりで引き受ける。サーラの住む家でばあやの作る豪勢な料理に仰天。サーラが“お姫様”である事も知ってさらに仰天。
偽りの関係が次第に…。分かっていても胸キュンツボポイント。
姉たちへの紹介。
ちょっと毒気ある姉たちだが、悪いお姉様方ではない。寧ろ妹や国の将来を案じている。
イケメン役者を愛人にしている長女。一夫多妻のバイカリでは理想の結婚相手とは?…とナランバヤルに問う。
この時のナランバヤルの返答が“イケメン”。
「結婚して他人と家族になる事は夢物語ではありません。その時の美しさや一瞬の楽しさよりも、自分の親兄弟と同じかそれ以上に自分を大切にしてくれる人」
姉たちへの紹介前、サーラはナランバヤルを気遣う。バイカリ人だから偏見で見られるかもしれないと。それに対しナランバヤルは、「あっしは大丈夫です。お嬢さんは大丈夫ですか? バイカリ人を婿にしたと見られますぜ」。
あるシーンでのサーラの台詞。「困った時は困難な方の道を選んで進んで行って下さい」。
胸に響く台詞、ハッと気付かされる言葉も多し。
ナランバヤルは長女の愛人=ムーンライト(実はいい奴だけど、この名前…)とある夢を実現させようとする。即ち、
アルハミドとバイカリの国交。
それぞれ欲しいものは隣の国が持っている。
アルハミドは水。バイカリは物資。
バイカリからアルハミドへ水路を開けば…。
アルハミドには水が流れ、バイカリにもルートが…。
解決策は単純なのだ。世の戦争も案外そうなのかもしれない。
が、複雑にしているのは…。積もり積もった因縁、ほんの一部…国のトップの傲慢さ。
これが全ての戦争の原因だ。
妨害しようとする者も現れるも、協力者のお陰で夢実現の可能性。
それが本当に実現化するには何十年も掛かるだろうが、確かな第一歩。
ナランバヤルは夢に向かって奮闘している。
一方、私は…。
ある時サーラは、いなくなった猫を探しにバイカリへ。とある民家にいた。そこは、ナランバヤルの実家。ナランバヤルの父と会う。
この時バイカリの族長が間もなく訪ね、アルハミドから嫁いできたナランバヤルの嫁を一目見たいという。
どれほどの美女か。美しいものを好む族長。
息子の嫁のフリをして欲しいと頼まれるサーラ。実は“猫”なのだが、ナランバヤルには奥さんがいると勘違い…。
アルハミド一の美女…? 族長はなかなか嫌み。
自分の容姿がどう言われようといい。元々コンプレックス持ってるし。
だけど、自分のせいでナランバヤルが嘲笑われるのだけは嫌。
普段おっとりのサーラに火が点いた。
族長と酒の飲み比べ。
酒好きの族長。一方のサーラ=アルハミド人は水不足故日頃から酒が水代わり。
結果は…。そのシーンがカットされるほど圧勝であった。次のシーンでは何事も無かったようにケロッとしてるし。
おっとりした性格で、ピュアで、美しい言葉使い。浜辺美波の声に癒される。
賀来賢人も好感なほど巧い。
本職声優は言わずもがな。中でも沢城ボイスのあのキャラがナイス。
原作者が西洋文化を専攻していたらしく、モデルにされているであろう国の背景、風俗などリアリティーがある。
“金の国”と“水の国”とされるだけあって、町並みや風景など画も美しい。
音楽も美しい。
でも何より美しいのは、温かな心。
終盤サーラとナランバヤルの前に立ち塞がるは、サーラの父でアルハミドの王。
ヤワな先代王のようになりたくない。バイカリを圧する強き王でいたい。
が、先代王はバイカリと停戦した事もあって一部からは“寛容王”と親しまれている。
それに倣って…いや、それ以上の寛容な王となるか。
それとも変わらずこの不毛な争いを続ける愚行王として後世に名を残すか。
答えは決まってるじゃないか。
こんなにも美しい国で、美しい心を持つ娘がいるのだから。
ナランバヤルの訴えは戦争終結の願い、対立やいがみ合いも無くし、和解と平和へのメッセージ。
それは当人同士も気付かせる。
心。その美しい心を知れば…。
容姿や立場など関係なく、お互い惹かれ合う。思いやる。愛する心が芽生える…。
エキサイティングな面白さだったら『マリオ』や『スパイダーマン』。
ストレートな良さだったら『サンドランド』。
ほっこり度なら今年一番のハートフル・アニメーション。