「帰蝶演ずる綾瀬はるかの凄さ、光秀・宮沢氷魚の狂気、家康に化けた斎藤工、キムタク信長が見た幻想」レジェンド&バタフライ Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
帰蝶演ずる綾瀬はるかの凄さ、光秀・宮沢氷魚の狂気、家康に化けた斎藤工、キムタク信長が見た幻想
大友啓史 (3月のライオン等)監督による2023年製作(168分)の日本映画。配給:東映。
藤島ジュリーK.も製作に入っていて意外であったが、信長ではなく実は濃姫(帰蝶)がメインの映画という作りであった。あまり期待してなかったこともあり、全体的にはなかなか面白いユニークな映画と思った。
帰蝶がメインだから、桶狭間の戦いも長篠の戦いも戦闘シーンはほぼ省略され、信長を戦争に送り出し、その後帰って来る視点から描かれる。
何より主演である綾瀬はるかの素晴らしさが、強く印象に残った。嫁入の時の壮絶な美しさ、それと対照的に初夜に木村拓哉を組み伏せ喉元に刀を突きつけるシーンの素早いアクション。鷹狩り代わりに、自ら弓を射て獲物を捉えるシーンのカッコ良さや颯爽と馬を乗りこなす姿に惚れ惚れとさせられる。彼女の抜群に思える運動神経の良さが、とても良く生きていた。
桶狭間の戦いの前、威勢だけ良い木村信長の演説と異なり、敵は行軍と戦いでくたびれ果てているがこちらは元気一杯と、理屈から入って味方兵士のモチベーションを上げる綾瀬帰蝶の演説模擬が素晴らしいかった。脚本も良くできていると思うが、彼女の静から入り次第に熱を帯びて味方を鼓舞する口調は実にお見事。
勿論、東映の時代劇として、しっかりとした居住空間のセット、しっかりとした鎧兜の兵や多くの馬等、いかにもお金が掛かってる感もとても良かった。安土城の遠景等、CG画像も壮大で違和感も無くてとても良かった。
京都の街にお忍びで繰り出した信長と帰蝶。財布をすりとった少年を追って貧民窟へ迷い込み危機的状況となった結果、貧民たちを大殺戮してしまう。2人が結ばれる吊り橋的エピソードが必要だった為とは思うが、頂けなかった。もしかすると、大名達の戦争の中、虐げられている存在を強調する為だったかもしれないが、この後延暦寺焼き討ちに異論述べる帰蝶への共感さえ得られなくなってしまうエピソードで、計算違いがかなり酷いと思った。映画でも2人の繋がりの象徴として描かれ、本能寺に現存するという信長遺品である香炉「三足の蛙」を入手するエピソードの必要性は分かるものの。
明智光秀が、天下武布の為に信長には魔王としての怖さが必要と、積極的に延暦寺焼き討ちを行ったとすると新解釈。家康饗応時の信長からの叱責も、恐怖心形成のための演技との新説。そして本能寺の変は、信長が魔王にそぐわない裏切り的行動をしたための懲罰だとか。奇想天外な気もしたが、光秀を演じた宮沢氷魚が狂気を感じさせる好演で、一定のリアリティを醸し出していた。
斎藤工の化けた姿とエンドロールが出るまで全く分からなかったが、特殊メイクで肥り貫禄を増した徳川家康も存在感が抜群。信長と光秀に演技を見破っていることをさりげなく伝えるセリフが大物感を見事に漂わせていた。
格好や口ばかりと帰蝶に言われてしまう不良で劣等生的な木村拓哉・信長も、全半はまるで宛て書きの様で良く似合っていたが、後半、比叡山攻略等、独裁者として人間性を無くしていくプロセスを上手く表現出来ず、何時も通りのキムタクとガッカリとさせられた。
ラスト本能寺で、信長が床下の抜け道を発見して戦火から脱出して、帰蝶と共に南蛮船に乗り込んで海外へ向かうシーンには、思わず何という新機軸!と驚きかけた。確か、信長の亡骸は見つかってなかったし、あり得ないとは言い切れ無い、凄いストーリー設定だと思いかけていたのだが・・・。結局、ラ・ラ・ランドの二番煎じ、信長が死の間際に見た幻想ということであった。東映の70周年記念作品で流石にそこまでの冒険が難しいことは十分理解できるが、少々残念な思いもした。
監督大友啓史、脚本古沢良太、製作手塚治、藤島ジュリーK. 、早河洋 、高木勝裕、 金岡紀明 、與田尚志、 村松秀信、 相原晃、 中山正久、企画プロデュース須藤泰司、プロデューサー井元隆佑、 福島聡司、 森田大児、Co.プロデューサー木村光仁、キャスティングプロデューサー福岡康裕、アソシエイトプロデューサー山本吉應、音楽プロデューサー津島玄一、ラインプロデューサー森洋亮 、中森幸介、撮影芦澤明子、照明永田英則、録音湯脇房雄、美術
橋本創、装飾極並浩史、キャラクターデザイン前田勇弥、衣装大塚満、ヘアメイクディレクター酒井啓介、床山大村弘二、VFXスーパーバイザー小坂一順、スーパーバイジングサウンドエディター勝俣まさとし、ミュージックエディター石井和之、編集今井剛、音楽佐藤直紀
スチール菊池修、スタントコーディネーター吉田浩之、監督補佐野隆英、助監督柏木宏紀、スクリプター佐山優佳、製作スーパーバイザー村松大輔、製作担当福居雅之、プロダクション統括妹尾啓太。
出演
木村拓哉織田信長、綾瀬はるか濃姫(帰蝶)、宮沢氷魚明智光秀、市川染五郎(8代目)森蘭丸、和田正人前田犬千代(前田利家)、高橋努池田勝三郎(池田恒興)、浜田学佐久間信盛、本田大輔林秀貞、森田想すみ、見上愛生駒吉乃、増田修一朗滝川一益、斎藤工徳川家康、北大路欣也斎藤道三、本田博太郎織田信秀、尾美としのり平手政秀、池内万作柴田勝家、橋本じゅん丹羽長秀、音尾琢真木下藤吉郎(羽柴秀吉)、伊藤英明福富平太郎貞家、中谷美紀各務野、武田幸三森可成、レイニ長谷川橋介、野中隆光蜂屋頼隆野。
Kazu Ann様共感ありがとうございました。あの蛙は実在の物だったんですね。たぶん香炉なんだろうと検索してみたんですが見つけられませんでした。疑問が解けてスッキリしました。綾瀬さんの演技はとても良かったですね。脚本の問題点は私も同感です。私の勝手な想像にすぎませんが、ひょっとしたら当初は綾瀬さん主演だったのに、あの社長の要望でダブル主演になったのかもと思っています。
きりんさん、共感及びコメント有難うございます。
そうですね。この映画でもとても良かったですが、少し前おくばせながら見た『海街diary』の綾瀬はるかさんにも痺れました。この映画も含め、私もすっかり彼女のファンになりました。
そうそう、中谷美紀さんの各務野も絶品でしたね。確かに良いところも、沢山ある映画でした。
オペラ「女たちの“本能”寺」ですよ。
突っ込みどころ満載でしたが、綾瀬はるかに免じてすべて許してやって下さい。
あと渾身のギャグに挑んだ中谷美紀さんに免じて(笑)
共感ありがとうございました
きりん