「嫌いじゃないけど主人公が嫌い」夜、鳥たちが啼く 上田さんの映画レビュー(感想・評価)
嫌いじゃないけど主人公が嫌い
お互い惹かれあっているのに踏み込めない、踏み込まないようにしている描写はとても良かった。んもーーーあんたたち早くヤれよじれったいなーーー!!!!と思いながら大変楽しめた。映像も綺麗だし雰囲気が良い。
しかし結末は私には理解できなかった。傷を負った大人同士の恋愛、まして子供もいるのでふわっとした関係のままでいいじゃないというのはわかる。ただピザ屋での会話は全く嚙み合っていないように見えたので、希望のあるラストには思えなかった。
身体の関係を持った翌朝。
「なんで慎一くんの家にいるのって言われてなんて答えていいかわからなかった」
「家族になってとか言わないから」
「好きにして、変な期待しないから」
いやこれ、期待させてよって言ってるように見えたんだが。
慎一は恋人になるとか結婚とか、具体的な先のことは恐らく考えていない。裕子はそれをわかっていて、慎一は何も言っていないのに自ら線を引こうとしている。さらにその後再び体を求めてくる慎一を冷たい目と強い言葉で思いっきり拒否している。結局それでも寝るのだが、それは慎一に恋しているからじゃないだろうかと思った。夜な夜な男と遊ぶ裕子だが、慎一にはそういう風に扱われたくない、重たい女とも思われたくない、しかし好きだから求められると応じてしまう、これ以上好きになりたくない、結婚は嫌だけど一人もしんどい…でも先のことは考えていない相手に深入りはしたくない、等、様々な葛藤があったのではないか。
からのピザ屋。
「このままやってみたらどう?結婚もしてないのに家庭内別居。面白いよな」
「面白くないよ」
「慎一君はずっとプレハブ?」
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
「結婚なんてしたいと思ってないのに」
慎一の適当な返答に裕子はここで目線を落とし声を低くして落胆している。このままでいいんじゃないとヘラヘラしているのは慎一だけだ。冗談ぽく会話は終わる。慎一のところを出て一人でちゃんとやっていこうとする裕子を慎一は止めるが、覚悟も無いのにそれは酷というものだ。裕子はきっとずっとモヤモヤするに違いない。
後半、慎一は子供と仲良くなっていい人っぽく描かれているが、嫉妬で元カノの職場の男性をめちゃめちゃに殴りに行くようなわけのわからないヤバい男だ。子供と仲良くなることが慎一の奔放さ、悪い意味での子供っぽさを表しているようで背筋が寒くなる。穿ちすぎかなあ?(多分そう。)
結局私はこの慎一という主人公が大嫌いなのだと思った。