「まりか と もえか」夜、鳥たちが啼く カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
まりか と もえか
山田裕貴お目当てでの観賞です。
相手役は女ざかり真っ最中の松本まりか。
自分が借りている小さな長屋風の一軒家を知り合いのシングルマザーに譲って、自分は離れのプレハブ小屋(物置)で暮らす売れない小説家の慎一(山田裕貴)。几帳面だが、うたぐり深く、嫉妬深いねくらな性格。衝動的な行動をとることもある。執筆も進まない。スランプ状態。何もかも上手く行かない時は悪循環に陥り易いものだ。
「風呂と冷蔵庫は使わしてもらうよ」
プレハブ小屋にトイレはないだろうから、どうしているのか?ちっちゃいことだけど、気になって仕方なかった。
大瓶ビールの24本入りのケースをプレハブに移し、冷蔵庫の一本を飲んでは一本を補充して空瓶をプレハブに持ち帰る。風呂から上がった女と鉢合わせ。一杯飲む?うん。グラスに注ぐ男の手が微かに震え、グラスの縁に瓶の口が当たり、カチカチと鳴った。缶ビールでは駄目なのだ。瓶ビールでなくては。薄いピンク色のカーテンを引く女をプレハブの窓から覗いている男。コピー機の保守点検の仕事で生計を立てていたが、嫉妬から元カノ(中村もえか)の働くスーパーの店長への傷害事件を起こし、知り合いのライブハウスに雇ってもらうようになった。が、その知り合いの男の妻がシングルマザーの裕子(松本まりか)だった。裕子と離婚したライブハウスの男は慎一の元カノのとすぐに再婚したのだろう。卵が先かニワトリが先かはわからない。女は手書きの生命保険の申込み書類を入力する仕事。子供(アキラ)は小学校2年ぐらいの男の子。母親の言うことをよく聞いて、とても素直ないい子。
佐藤泰志の小説の映画化6作品目。
道を隔てた向かいの公園のケージには派手な色彩の大きな鳥が飼われていて、発情期には夜中でもけたたましく鳴く。
アキラは両親と3人で暮らしていたときは一旦寝ると朝まで絶対起きなかった。それが、母子家庭になるとオネショはしないのに夜中に2度以上起きる。2度目に目を覚ました時には必ずそばにいた母親が居ないことが多くなった。毎晩のようにアキラが寝たあとに夜に男たちと遊ぶようになってしまった女。ストレスや不安が溜まるほどに性欲がたかまる性分らしい。夜中に執筆する男は夜中に出かけてゆく女や男に送られて帰宅する女をプレハブからみている。男は母屋で母子と食事をともにすることはなかった。
母子との海水浴。クラゲに刺された左腕はためらい傷かと思ってたけど・・・・市民球場での花火大会。達磨さんが転んだ。ピザの店でともに食事し、花火を見た夜。アキラは母屋でぐっすり寝ている。窓を開け放ったままの狭い蒸し暑いプレハブ小屋で酒を酌み交わすうちに、それまで裏切られた同志の二人を隔てていたわだかまりは本能の波に押し流された。
東出昌大と奈緒の「草の響き」よりはハッピーエンドでよかったような。
佐藤泰志原作の映画化はキャストが命。
極主夫道で松本まりかと共演していた藤田朋子が隣の家のおばさん役。きっと裕子の啼き声を聞いて、久しぶりにかえってきた連れ合いとしっぽりしたに違いない。
元カノ役のテレビドラマ部長と社畜の恋はもどかしいで主演だった中村もえかもエロ路線だし、キャスティングが大成功。当分、山田裕貴の出る映画は見逃せませんね。