「理屈で納得できるが、感情的には納得できない」夜、鳥たちが啼く コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
理屈で納得できるが、感情的には納得できない
難しい作品であり、よく表現したと思った。
心の傷・喪失感を抱えた者同士の傷のなめ合いというか、寄り添いをテーマにしていて、その心の隙間をどう表現するのか、どう心を救済し立ち直るのか、というのが映画としての監督や俳優の役割だったと、理屈では理解できた。
心情を表情や指先の動き、反復に寄る空虚さなどで描くので、飲みものを注いだり、食事をしたりという、喋らない「間」の演技が多い。
小説の行間を読み取るように見れば面白い部分だが、これを退屈に感じる人も多いと思う。
読んでいないが、おそらく原作は作者・佐藤泰志氏の実体験、または同じような衝動を抱えながらも実行できなかった心情をベースにした、私小説なのではなかろうかと推測した。
たしか、デビューしていくつかの賞を獲った後、自律神経失調症を患い、芥川賞に何度もノミネートされるものの、取れないまま首をつってしまった作家だとだけは知っていて。
心に大きな闇を抱えて、自らにその刃を向け続けた作家らしいと。
その点を知っていればまだしも、知らないで観たらば、主人公には同情の余地も、共感できる部分も欠片もない。
小説が売れない焦燥、妻同然の恋人に養われている屈辱感、彼女がバイト先で別の男と仲良くしているのが嫉妬で許せない。
壊れていく心は、誰も信じられず暴力の発露に向かう、という主人公。
表面的には、病的に嫉妬深い面と、「だるまさんがころんだ」で子供たちと無邪気に遊ぶ人間とが同一人物には見えず、病的ではあるが、自業自得じゃないかとさえ突き放して見てしまう可能性が高い。
ただ、本当に病んでいたとしたら。
松本まりかが演じるシングルマザーも病んでいたとしたら。
それは、彼らだけではなく、周りの環境や、別れたパートナーがもたらしたものだとしたら。
その魂の再生を描こうとしたのなら。
それは現代社会では「よくあること」だし、「誰しもが陥るかもしれないこと」でもあって、普遍性はある……
と、理屈で考えて納得した。
感情的には、どうにも納得はできなかったが。
たぶん、作品に没入できなかったのは、松本まりか演じるヒロインにあり。
シングルマザーになった理由が、元旦那の不貞であれば、元奥さん側が家や財産をがっぽりもらって、旦那を追い出すべきでしょ。
裁判とかしないの?
という点がひっかかってしかったのだった。
結果として、「松本まりかの肢体がエロかった」という印象が一番大きく残っただけだった。