「期待度○鑑賞後の満足度◎ 愛とは焼鮭の皮(私も好きです)。ヤクザと中学生のバディコンビがいつしか微笑ましく愛おしくなる日本製コメディ映画の佳編。」カラオケ行こ! もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
期待度○鑑賞後の満足度◎ 愛とは焼鮭の皮(私も好きです)。ヤクザと中学生のバディコンビがいつしか微笑ましく愛おしくなる日本製コメディ映画の佳編。
①脚本が巧いですね。あり得ない組み合わせがいつしかバディに成っていく過程が嘘臭くなく自然に描かれていて微笑ましいです。
最初はたしかにギクシャクてしているふたりですけれども(映画の方も最初の方はやや歯切れが悪いですけれども徐々に良くなってくきます、編集の問題ですかね)、聡実君が狂児を慕い出す辺りから俄然面白くなります。
②映画ファンとしては、映画部で二人が観ている映画が名作ばかりで嬉しくなります(その時の聡実くんの状況を反映しているのも上手い)。
先ず、ジェームズ・キャグニーの映画(彼の映画は『白熱』しか観たことがありませんので、残念ながら題名分からず)⇒『カサブランカ』⇒『三十四丁目の奇蹟』⇒『自転車泥棒』
映画部、廃部にならなければよいなあ。
③二人の遣り取りが、いかにも笑いを取りに来るのではなく、何となくテンポがずれているのが却って可笑しい。
演出と演技との間の取り方が上手い。
④綾野剛の大阪弁には最初やや違和感がありましたけれども、さすがに演技巧者。芝居の上手さに引き込まれるうちに次第に気にならなくなってきます。
⑤橋本じゅんは、朝ドラ『ひらり』(でした。『晴れたらいいね』はドリカムが歌った主題期)の頃は右も左も分からない役者という印象だったのですけれども、最近は映画・ドラマでよく見掛けるようになって、良い中堅役者になってきましたね。ここでも、朝ドラ『ブギウギ』とは全く違う役を好演していて面白いです。
⑥組の面々もよくこれだけの役者を集めたなぁと思います。リアリティよりも一般人が持っている“ヤクザ”のイメージに沿った画作り、キャラ作りなのも笑えます。
⑦カラオケで一番下手だった組員に自分の趣味の下手くそな紋紋彫るってどんな組長よ!って思っていたら北村一輝だったので何故か納得。キャスティングも上手いです。
北村一輝にせよ、加藤雅也にせよ、ワンシーンの登場ながら印象的でしたね。
狂児命名の下りで、掠れた「京二」の上から「狂児」と上書きして“セーフや”と言ったら、姉娘が“アウトやん”とチャチャ入れたシーンも面白かった。
ホンマに大阪のオカンをやっていたあのシーンの女優さん誰なんでしょうね。
しかし、草刈正雄にしろ、阿部寛にしろ、加藤雅也(同県人として応援します)にしろ、モデル出身で若い頃は顔だけで(顔もない私が言うのもおこがましいですけれども)味も演技力もなかったのが、皆さん歳を取ってから良い役者になっておられるのは何か嬉しいですね(本作とは直接関係ありませんけれども)
⑧学校パートのエピソードがいつも突然途切れて「聡実+狂児」場面に切り替わるのは最初少々戸惑いましたけれども、ラストで回収されたので成る程と思いました。
聡実君が声変わり期に差し掛かっているのを何故和田君に誰も説明してあげないのか不思議でしたけれども、ラスト和解できて良かった。次の部長、頑張ってね。
変に思春期の恋愛ごっこを混ぜない話の進め方も良かったです。
聡実君と和田君の間を取り持ったり、不在の聡実君の和解代わりに部を仕切ったり、副部長の中川さん、男前です(今はこういう言い方もセクハラなのかしら)。
⑨聡実君も、コーラス部の部長になるくらいのしっかり者で真面目なキャラ、と思いきやなかなか図太く且つそそっかしい面もあるのが微笑ましい。
狂児にカラオケに連れてこられて「イヤや、イヤや」と言いながらちゃっかりチャーハン食べてるし、中古のカセットデッキもちゃっかり買って貰ってるし。
ヤクザに向かって「カスです」なんて吐いておきながら直後に土下座して謝ってみせるのも実は結構大物だったりして。
と思うと、狂児が事故で大怪我を負ったと思い込んでコンクールをほっぽりだしてカラオケ大会に駆けつけたり、狂児が死んだと聞いて組長含め組員を怒鳴り付けたり、「紅」を熱唱したり(ここに来て初めて彼の歌声を聞かせる、また声変わりにさしかかっているのをわからせる、構成が上手です)。
でも聡実君の、このもがきと言うか揺れ動きと言うかジタバタは、思春期のそれこそもがき・揺れ動き・ジタバタを視覚化していて実に映画的だと思います。
⑩肘をついて食べるのをヤクザが注意する(行儀や礼儀を社会のアウトローが教える)というのもよくあるギャグながら、綾野剛の巧さで微笑ましいシーンになっています。
綾野剛の硬軟ない交ぜた好演がこの映画を面白くしている大きな要因であるのは間違いないでしょう。
⑪原作コミックスは読んだことがありませんけれども、変わった大人に真面目な少年(でも大胆なところもある)が振り回されながら成長していく姿を面白おかしく描いている、成長を見届けた後突然その大人が消えてしまう、という点で大好きなマンガ「イオナ」をちょっと思い出しました。