「青春の光と影と幻」カラオケ行こ! ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
青春の光と影と幻
そのフィルモグラフィーの中でも
〔リンダ リンダ リンダ(2005年)〕や〔天然コケッコー(2007年)〕等の
{青春モノ}にとりわけ力を発揮する『山下敦弘』が
今回の題材をどう料理するかが見どころの一つ。
そしてもう一つは
〔ヤクザと家族 The Family(2021年)〕や〔最後まで行く(2023年)〕で
危ないキャラクターを演じた『綾野剛』が
同類の、とは言えコミカルに振れた役をどう演じるか。
理不尽な組長なら
『今野敏』の〔任侠〕シリーズに止めをさす。
病院やら出版社やら学校やら、はては銭湯まで、
潰れそうになった事業体の再生にボランティアよろしく手を尽くす。
その度に振り回される組員、とりわけ若頭は胃が痛くなるのだが
一方で日頃自分たちとは縁のない世界に目を輝かせる若い衆もおり。
が、本作の組長は、自身の誕生日に組内のカラオケ大会を開き、
一番の下手に自ら刺青を彫り込むとの無理筋。
今回はマズイと危機感を持った「四代目祭林組の若頭補佐」
『成田狂児(綾野剛)』は
大阪府の中学生合唱コンクールの場で目を付けた『岡聡実(齋藤潤)』に指導を依頼。
その時のセリフが本作のタイトルであり
始まりの一言。
それをどのように表現するかも興味をそそられたのだが、
こわごわと切羽詰まったような、懇願するような、しかし諦念すら混ざった表情と声音が
なんとも表現できぬおかしみを誘う。
出だしの感触や善し。
最初は恐れていたものの、
次第に『狂児』にシンパシーを感じることで指導にも熱が入り出す『聡実』。
この一連の流れは、期待通りに面白い。
とりわけ演じる『綾野』の振り切った歌唱シーンには刮目。
ただその結果として、部の活動が疎かになるくだりや
自分の変声期に端を発する合唱部内の思いのスレ違いのエピソードは
かなりおさまりが悪い。
手練れの『山下敦弘』であれば
もう少し巧く収斂できなかったものか。
合唱以外では頑なに唄うことを拒んできた『聡実』が
カラオケで絶唱するのはなかなかの見せ場。
それも『狂児』の想いを引き継ぐとの
相当に泣かせるエピソードを盛り込んだ上で。
中途の弛みも、このシークエンスで
一気に挽回できた構成ではある。
おもえば昔は、身内や近所に
異質な叔父さんやお兄さんがいて、
ちょっと危ない世界や見知らぬことに触れさせてくれたもの。
今ではすっかり無くなってしまった、
そういった郷愁にも本作は溢れている。