劇場公開日 2022年8月12日

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「野心溢れる政治家と影の選挙参謀の固い友情の快進撃とそれを阻む政界のドス黒い闇、投票が殴り合いに見えるくらい張り詰めたテンションが圧巻の実話ベースのポリティカルサスペンス」キングメーカー 大統領を作った男 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0野心溢れる政治家と影の選挙参謀の固い友情の快進撃とそれを阻む政界のドス黒い闇、投票が殴り合いに見えるくらい張り詰めたテンションが圧巻の実話ベースのポリティカルサスペンス

2022年8月21日
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鑑賞方法:映画館

薬剤師のソ・チャンデは通行人に罵声を浴びながらも街頭で自身の主張を訴え続ける新民党のキム・ウンボムの政治信条に感銘を受け、彼の選挙事務所に乗り込み選挙を手伝いたいと申し入れる。チャンデの発案した反則スレスレの戦略は効果絶大で、ウンボムは補欠選挙で当選し、政界でたちまち頭角を表し始める。チャンデは影の選挙参謀としてウンボムを支え続けるが、与党の共和党はウンボムの無双ぶりの裏にチャンデがいることを知り彼を引き抜こうとする。

チャンデが打ち出す劣勢であることを逆手に取った型破りでバラエティに富んだ選挙キャンペーンの数々がとにかく痛快。トンチ合戦のような序盤も楽しいですが、中盤の新進党総裁選における丁々発止のやりとりはアクション映画のようなハイテンションの見せ場になっていて、汗の一滴が台詞よりも雄弁に心情を語る演出に打ちのめされました。そして物語の陰影はグッと深くなり、ウンボムの右腕であるのに余りにも型破りなので表舞台に立つことが出来ないチャンデの焦燥が、新民党の中で瞬く間にのし上がっていくウンボムの眩しいばかりの快進撃の中で浮き彫りになっていく後半の展開にグッと引き込まれてしまいます。誰もが何をも国から強制されない社会を理想とする二人の友情が熾烈な政争の中で激しく揺さぶられるドラマは圧巻ですが、60年以上も前の理想が未だに実現していない世界に生きていることを思い知らされて愕然とします。

もはや現存しない60年前の風景をCGでさりげなく再現したり、実際の記録映像に登場人物を合成したり、モブシーンをそのまま再現するのではなく当時のフィルム映像のように加工したりと様々な表現を駆使して当時の空気感を再現する繊細さが絶大な効果を発揮、韓流ノワールの傑作『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』を監督したビョン・ソンヒョンの手数の多さに感服しました。緊張感漲るドラマをしっかりと支えるチャンデを演じるイ・ソンギュンとウンボムを演じるソル・ギョングの熱演が素晴らしいことは言うまでもありませんが、与党である共和党内外で暗躍するイ室長を演じるチョ・ウジン、新民党総裁選でウンボムと対決するヨンホを演じるユ・ジェミョン他脇を固める助演陣もこれでもかとサスペンスを盛り上げます。

個人的に溜息が出たのはとにかく美しい喫煙シーン。さまざまな心情が紫煙とともにスクリーンを漂う映像に見惚れました。このさりげない演出一つ取っても邦画サスペンスが韓流の足元にも及ばない理由が見て取れます。序盤数分で語られる他愛のない話がクライマックスでガツンと効いてくるので上映中の途中入場は厳禁です。

よね