「アクションスター25年超の加齢と反比例する自演スタントの進化を記録し続ける空前絶後のシリーズの最新作」ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
アクションスター25年超の加齢と反比例する自演スタントの進化を記録し続ける空前絶後のシリーズの最新作
トム・クルーズ、1962年生まれの61歳。シリーズ第1作の「ミッション:インポッシブル」の公開が1996年、撮影時は33歳位なので、実に四半世紀以上にわたって連作の主演を続けていることになる。この機に過去6作を一気見したが、50歳代で臨んだ5作目「ローグ・ネイション」(2015年)あたりからトムも相応に年を取ったなあと感じさせる。
その「ローグ・ネイション」の公開時には、当サイトの新作評論に寄稿して「イーサン・ハント率いるCIAの特殊作戦部IMFが不可能に思える作戦を遂行するスパイアクション物であると同時に、主演のトム・クルーズが自ら高難度のスタントを敢行する姿をとらえる実録としての魅力も併せ持つ本シリーズ」と書いた。そう、二十数年にも及ぶ長寿のアクションシリーズでありながら、主演俳優が交代することなく、しかも回を追うごとに難易度を増す独創的なスタントに主演スターが自ら挑み続けるという、映画史上例のない壮大なプロジェクトに、私たち観客はずっと立ち会っているとも言える。
4作目までの監督はブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウー、J・J・エイブラムス、ブラッド・バードと毎回交代してきたが、5作目からこの「デッドレコニング」2部作までクリストファー・マッカリーが監督・脚本を担当。そのため、レベッカ・ファーガソンが演じるイルサが5作目以降のキーパーソンとなっていることを含め、1~4作に比べると第5作から最新の第7作まではストーリー上の繋がりがかなり強くなっている。「デッドレコニング」の鑑賞前に過去作を予習しようという方は、もちろん時間があれば全作を通して観られたらベターだが、そうでなければ「ローグ・ネイション」と「フォールアウト」だけでもおさえておくのがおすすめ。それにより、敵・味方の単純な二項対立でなく人物相関が複雑に入り組んだシリーズ最新作のストーリーにすんなりと入り込めるだろう。
本作では高度に進化した人工知能が物語の“鍵”になっているのだが、撮影開始の2020年の前に脚本ができていたことを思えば、ChatGPTや画像生成AIの登場で人工知能への関心と懸念が一気に高まった2022年以降の状況を先取りした面もある。さらに何のめぐりあわせか、本作のプロモーションで予定されていたトム・クルーズの来日が、AIの活用に関する規制作りなどを求めた全米俳優組合のストライキの影響で中止になった。将来的に視覚効果のプロセスにAIの応用が進めば、よりリアルにCG描画されたデジタルキャラクターがどんな超絶スタントでも難なくこなせるようになるし、人気俳優とスタントマンのフェイススワッピング(アクションを演じたスタントマンの顔をスターの顔に置き換える)もより自然に(かつ低コストで)仕上げられるようになる。そんな時代が間近に迫っているからこそ、本シリーズにおけるトム・クルーズの体を張ったアクションは希少かつ貴重な偉業として映画史に燦然と輝き続けるのだろう。