「文化の単位を考える」アンデス、ふたりぼっち 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
文化の単位を考える
私たちは文化を考える時、ついつい国単位で捉えがちだけど、それはずいぶん荒っぽい考え方なのだとこの映画を観て思い知らされた。この映画は、ペルーの少数民族、アイマラ族の2人の男女の生活を描いている。全編アイマラ語で演技されていて、スペイン語は一切聞こえてこない。山奥でたった2人で動物たちを飼いながら暮らしている様子をカメラは静かに写し取る。伝統を守って暮らす2人には息子がいるが、街に出たきり帰ってこない。標高5000メートルの地点で大地と共に生きるこのような文化と言語があると言うこと自体が感動的であり、世界の広さと深さに驚嘆する。
少数民族の言語は、世界的に減少しつつある。インターネットは世界の文化を近くしたが、基本は英語の世界だ。少数民族の言語のキーボード入力ができなかれば、その言語は使われにくくなる。少数言語はAI時代の機械学習の素材として不利だろう。そうなると、その分文化は消滅し、多様性が失われる。帰らない息子はきっと街で「今の生活」を満喫しているだろう。その裏では文化が消えようとしている。この映画は、その消えようとしている側に徹底的にカメラを向けている貴重な作品だ。
コメントする