「「戦争は常に無垢な人びとを傷つける。」」長崎の郵便配達 humさんの映画レビュー(感想・評価)
「戦争は常に無垢な人びとを傷つける。」
「戦争は常に無垢な人びとを傷つける。」
元英国空軍大佐で後に作家となったピーター・タウンゼントさんの言葉。
彼は、戦時中エースパイロットとして加担した。
その自責の念は自分なりに償う術を模索し続けていたのだろうと思う。
その思いが当時長崎で郵便配達員だった谷口さんとの出会いとなり、一冊の本となる。
あの恐ろしき夏の日、一瞬にして奪われたたくさんの命の中、凄まじい火傷を負いながら奇跡的に生き延びた少年 谷口さん。
2015年、核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に合わせて渡米し、NYの国連本部で被爆者として生の声をあげたあの方だ。
人間が人間として生きていくためには、「地球上に一発たりとも核兵器を残してはなりません。」
谷口さんの渾身の訴えも虚しく
今も世界は壊れた危うさで満ちた悲しいニュースが溢れかえる。
晩年の谷口さんには傷跡のこる体に苦しみの追いうちを与えていただろう。
そう考えただけで張り裂けそうな気持ちになる。
ピーターさんの娘イザベルさんは父亡き後その本を読み使命感を抱き、かつて父が取材に訪れた被爆地へ。
父の活動を知ることは父を知ることであり、その意志を継ぐことが今後の生き方の目標になったと語る彼女。
父の遺品の取材時のカセットテープの声をそのまま使うドキュメンタリー的映画はリアルに胸を突く。
その中でも、大好きだったという自然の音が録音されたものに彼女は涙するが、そのやさしく美しい響きは戦争との対極にあることと非情の怖さを炙り出す。
そして、立場はまるで違えど戦争がもたらす心の傷はどちらにも深くその後代々に渡り永久に癒えることがない事実を教える。
人間同士の戦争ほど愚かなことはないと過去の経験から知りながら、無垢な人こそがこの時も脅かされている世界。
それをとめる手立てがもはやないかもしれない崖のふちになにができるか。
全世界の人々が知るべきは…
谷口さんとピーターさんの言葉の重みそのものだ。
今年の8月9日も
儚く散った魂をのせ青い地球が泣いている気がした。