「哀しみの千夜はこれからも続いていく」千夜、一夜 カモシカヤマネさんの映画レビュー(感想・評価)
哀しみの千夜はこれからも続いていく
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田中裕子が好きで鑑賞。彼女に魅入られながらエンドロールまで見ていられた。
愛する人が何も言わずに失踪する、という経験がないため感情移入はできなかったが、幸せの絶頂の時に理由もわからず相手が姿を消してしまったら、自分も一生引きずるだろうな、と思うので、共感できなくはなかった。
尾野真千子の演じる女性の失踪相手である安藤政信が現れて、田中裕子の抱える苦悩を垣間見て自分のしたことを省みたシーンはとてもよかった。
また、登場する役者の全ての演技が素晴らしく、そこにある臨場感が飽きさせなかった。
夫を待ち続ける彼女に想いを寄せる役のダンカンが絶妙に情けなくて、全く魅力的でないのが、説明不足に上手い効果をもたらしていた。
失踪した夫がどんな人物なのかまるで描かれていないのだ。ここで、「俺じゃだめか?」と問うダンカンがいい男だったら、こっちでいいじゃんと見てる方も思ってしまうのだが、いかんせん頼りない。(それにしつこい)
それだけ、失踪した夫がよほどいい男だったんだろうなと想像がつく。短い尺の中で効果的に表現されてると思った。
最後は何も進展しないけれど、彼女は「千夜」を選んでいる。
夕陽に輝く海と、あまり凛としない姿で砂浜を歩いて遠ざかる最後の後ろ姿が、彼女がこの先も同じように生きていくのだろうと予感させた。
やるせないけれど、この作品のテーマである「残された人の一生続く苦しみ」はよく描かれている。
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