劇場公開日 2023年4月21日

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「人はなぜ、人を追い込み追い詰めるのか。 人はなぜ、不正を不正と知ってそれに手を染めるのか。 人はなぜ、かくも憐れな生き物なのか。」ヴィレッジ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人はなぜ、人を追い込み追い詰めるのか。 人はなぜ、不正を不正と知ってそれに手を染めるのか。 人はなぜ、かくも憐れな生き物なのか。

2023年5月19日
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鑑賞方法:映画館

霧に煙る山間部の村に異彩を放つゴミ処理施設。
この村にはかつて、伝統芸能として「能」が息ずいていて、子供の頃から能に親しんでいた者も少なくないようだ。

この映画は、過疎の村、産廃不法処理、環境破壊、メンタルヘルスケア、ハラスメント、偏見と村八分…世の中に存在するあらゆる理不尽を素材に織り込んだスリラー映画だ。
そして、藤井道人監督の仕立て方は極めて巧みだった。

閉鎖的なムラの中にいて、主人公の青年優(横浜流星)は、己を殺すようにして生活している。
職場であるゴミ処理場で明らかないじめを受け、ヤクザが絡む闇の仕事にも命じられるがまま従っている。パチンコに浸って借金を負っている自堕落な母親(西田尚美)との二人暮らしだ。
映画の序盤は、二枚目横浜流星がその眼から輝きを消し去って、陰鬱で活力のない不気味な青年を演じてみせる。
小さな村で、彼と母親がなぜこのような生活をしているのか、能の舞台とそれに見入る少年の映像に、常軌を逸した男が家に火を放つ映像が挿入されるイントロのシークェンスがヒントとなる。

東京から村に戻ってきた幼馴染みの美咲(黒木華)と、最初は拒否していた優が交流を再開することで、物語は動き出す。
彼女が問題を抱えて故郷に戻ったことは、登場場面から示唆されている。たが、村営(と思われる)ゴミ処理施設に就職した美咲は意外と明るく、周囲に受け入れられて広報に従事する。
優を施設の案内係に起用する彼女の案に経営者である村長(古田新太)が賛同し、優は大きな転機をむかえる。新たな役割を得た彼はポテンシャルを発揮し、寵児となっていく。
この中盤での横浜流星は、単に明るさを取り戻しただけではなく、勢いに流される不安なのか、自分と同様に訳ありの同僚たちに対する後ろめたさなのか、負の空気感を微かに醸し出す。

村長の息子(一ノ瀬ワタル)の行動が事件へと発展し、危機に瀕した優は悪戦苦闘する。
この終盤がスリラーのメインステージで、身体も精神状態も激しく揺さぶられる優を“動”に転じた演技で表現して、横浜流星は益々冴える。

優の行動を付かず離れず観察している美咲の弟恵一(作間龍斗)の存在(視線)が、この映画をスリラーとして成立させる重要な役割になっている。自閉症的な彼の眼は、物語のごく始めの時点から優に焦点が絞られていた。
そして、この恵一を御し易い相手だと考えた優の判断ミスが、最終的に破滅への引導となるのだ。

他にも、いくつかのアイテムがスリラーとしての雰囲気を盛り上げる。
「能」と演目「邯鄲(カンタン)」と「能面」。
「ゴミ投棄場」とそこに空いた「穴」。

近年のサスペンス映画はショック描写に頼りがちだが、本作はスリル描写に力点が置かれていて、我々観客は主人公が外堀を埋められていく過程を目撃することで、主人公と同じように追い詰められていく。
丁寧な演出に個性的な俳優陣が的確に呼応していて、見事なコラボが成立している。

メインキャストの横浜流星、黒木華、古田新太の3人が強力に牽引しているが、他のキャストも印象的だ。

一ノ瀬ワタルの、憎まれ役を一身に引き受けた堂々たる悪役ぶり。

優がゴミ処理場で虐待を受ける様子を見て、自分なら耐えられないと言っていた同僚の若者を演じた奥平大兼。
優が施設の案内係となって現場を離れると彼が次のターゲットとなるが、か細く笑いながら「順番がきただけ」と言って耐えていた。悲惨な運命に襲われた彼が、最後に優に向けた視線が憐れで、胸につかえる。

村長の母親を演じた木野花。
老婆の特殊メイクが強烈だった。
無言で息子に圧力をかける存在感はさすがだ。

誰よりも優と美咲のことを身近に思っている、刑事であり村長の弟でもある中村獅童。村の闇の部分を知っていて嫌悪している。
かつては子供たちに能の舞を教えていた。ここは歌舞伎役者の本領発揮といったところ。
優に疑惑を抱いてからの悲しげな眼差し。強面でありながら、優しさを醸し出す。

実在する村かと見紛うほど、山間部でのロケーションを見事なアングルで切り取ったカメラワーク。
最後の炎上シーンの圧倒的迫力。
そして、社会の理不尽に翻弄された不幸な若者に成りきって、その怒りや焦りを身体から、声から、視線からにじみ出すように演じた、やはり横浜流星だろう。
ラストシーンの彼の表情は、私の心臓を掴んで離そうとしない。

kazz
りかさんのコメント
2024年12月3日

レビューといい、コメントといい、
Kazz さんの賢さが滲み出た文ですね。

力(りき)入ってますね👍

しかし、作者はなぜ彼を虐めまくるのだと腹立たしいです。

りか
りかさんのコメント
2024年12月3日

ううむ🦉😣なるほど❣️
というレビューです。
横浜流星さん、凄いです。

りか
Uさんさんのコメント
2023年10月20日

共感を有り難うございます。本当ですね。優も母も、村長もその息子も、否応なく負の方向へ引き寄せられて、自分と他人を傷つけていきましたね。
それを体現していた横浜流星が、やはり凄かったと思いました。

Uさん
humさんのコメント
2023年5月29日

陰鬱な目の横浜さん、胸にのこるような表情でした。あれは、美咲の母性が放っておけない☝️
でもきっと長い初恋の成就だったんじゃないかなとおもいましたけど。

hum
満塁本塁打さんのコメント
2023年5月20日

返信ありがとうございました😊😊

満塁本塁打
Bacchusさんのコメント
2023年5月20日

後出しで実は…みたいな作りにせずもっとストレートにみせてくれたら良いのにと思いました。

Bacchus
満塁本塁打さんのコメント
2023年5月20日

コメントありがとうございました。おっしゃるとおりですが、政権与党は誰がどこの政党が政権取っても同じですね。お偉いさん相手の調整ですから・・ありがとうございました😊

満塁本塁打