劇場公開日 2023年4月21日

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「能いる?説について考える。」ヴィレッジ DEPO LABOさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0能いる?説について考える。

2023年4月26日
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村のゴミ処理場に反対して村八分になった父親の呪縛を背負う主人公は、里帰りした幼なじみの存在がきっかけで、ゴミ処理工場の広告塔になり・・・

以下ネタバレ気味

いわば村の代表に成り上がるも、施設が違法廃棄物処理に加担していたことが公になり、主人公は村のスキャンダルの全責任を背負わされる。負の呪縛から逃れきれなかった主人公は、ついに村の中枢を破壊する。

▼能は必要だったのか説について考える

・この映画のテーマとして、ルッキズム(外見至上主義)に対する痛烈な批判があるのではと思いました。

・「犯罪者の息子」という表面的な評価をするだけで、主人公の父がどんな心情だったかには興味ゼロの村人たちによって、主人公は村八分に遭い苦悩する

・そんな主人公はメディアに取り上げられるも、「若手のホープ」というところだけに食いつかれ、犯罪者の息子という経歴についてはノータッチ。ゆえに主人公は返り咲く。

・能に幼い頃から親しみがある美咲は、「能は意味は分からなくて良い」「己と向き合うもの」としているが、ルッキズムに支配された現代人は、能を見ても、退屈な動きとしか感じ取れず、能が描く精神世界さえ、理解する感性を失ってしまった。

・処理施設は、地下水への浸透といった目に見えない自然への影響には関心が及ばなかった結果、水質汚染が進行し、村が破滅する未来が示唆される。

・つまり、現代人は、他人の心情を慮るどころか、目に見えない自然の理などに思いを馳せる精神までもが失われてしまっていることを、能が鍵となってあぶり出される。

・そして自然が神だった時代は終わり、金が神となった現代は、自然よりも利益を優先した結果、最終的に自らのいる地を住めない場所にしてしまう。

・そして、冒頭では、「長い年月にわたって栄華を誇ったところで、終わってしまえば、ただの夢だ」という主旨の能を引用し、劇中で度々登場する。

・資本主義に転じるまでは、悠久な歴史の中で、自然が神だった時代があったわけですが、資本主義に転じてからの自然破壊のスピードはすさまじく、まさに自然が豊かな時代が夢のようだった時代に、我々は突入しようとしている。

・以上のことを描く上で、能を引用することが効いているのではないかなと思いました!

・水俣病をテーマにしたジョニーデップ主演の「MINAMATA」の落とし所は、「水俣病は過去の出来事じゃなく、水俣のような出来事は世界各地で頻発していき、やがて地球規模の災害になりうる」というところだった

・そんな感じで、今作も、ひとつの村を描いているようでいて、実は世界全体の縮図こそが、この映画に登場する村なのではないかとも考えることができるのがまた、味わい深い。。

・この映画のなかで、とにかく不幸になっているのは、前時代的な人間、つまり、資本主義よりも自然を優先してきた人間たちばかり。

・そういう反資本主義な人にとっては、現状の世界というのは、「この世界こそが夢」と言い聞かせなければ生きていけないほどにしんどいものなのでしょう。。

▼単なるシンデレラストーリーで終わらなくて良かった。

・シンデレラ的に成り上がって終わるんじゃないか!?と思ってからの激動がすごかった。

・主人公の呪縛の発端となったゴミ処理施設によって、主人公は貶められ、そして返り咲き、最終的には施設と自分の立場を守るために仲間まで売ろうとするところまで大変身する振れ幅のデカさが豪快。

・人間のエゴさ、愚かさ、グロテスクさを見事に描けていたし、しっかり演じ分けられてたのでは!!

・主人公が成り上がるにつれて、メディアで元犯罪者の息子のレッテルで炎上するのではとミスリードさせておきながら、そうはならないのがナイストリック。

▼この映画好きな人は多分『コクソン』も好き

・ダークトーンで一つの村を描きつつも、社会の闇の縮図のなかで翻弄される人間模様を描いてる
・全体に漂うダークおとぎ話感
・伝統的な慣習を織り交ぜてる

といった共通点がある『コクソン』っぽい作品だなぁと個人的には思いました。

DEPO LABO