「ヴィレッジとは…」ヴィレッジ ヨークさんの映画レビュー(感想・評価)
ヴィレッジとは…
河村プロデューサーと藤井監督らしい社会派の人間ドラマでした。
閉鎖的でムラ社会のような狭いコミュニティを築き血縁に縛られる日本全体を見事に風刺した作品ですね。
舞台となっているのは山に囲まれた小さな村ですが、もちろんこれは前時代的な地方を批判しているのではなく都会でもどこにいっても同じような問題を抱えている日本人性の批判。
美咲が「都会に出ても何も無かった」というセリフはその象徴。
村の繁栄の為にゴミ処理場を建設して、意にそぐわない者は村八分にする。そこで死者が出ても素知らぬ顔。一方で犯罪者の息子というだけであからさまな陰口を叩く。都合の悪いことには見て見ぬふりをする自己中心的な姿を、能面をつけて村人たちが行進していく姿で痛烈なメタファーとして描いたシーンに背筋が凍りました…。
さらに不法投棄まで請け負い、清濁併せ飲んでなんとか人生を持ち直した主人公を襲う不幸な出来事の連続。
誰よりも理不尽さによって苦労してきたお前もまたそちら側に立つのかと、神の見えざる手によって試練が与えられる。そして父親と同じような悲劇を繰り返してしまう負の連鎖。
彼が輝かしい人生を手に入れたことも、村というコミュニティが自己の利益の為に見て見ぬふりで得た繁栄も、過ぎてしまえば夢の如し。能の演目や美咲が語る「邯鄲の枕」のエピソードがこの物語のモチーフとして機能しているあたりもさすがですね。
また、明るい太陽に眩しいくらいに包まれた恵一くんがスーツケースを持って村を後にするラストシーンも、新しい希望を示唆する印象的なカットでした。
全体として、細部までキッチリ描かれており、僅かなセリフで登場人物それぞれの過去や立場を伝えて2時間の映画に収める脚本も無駄がなく良かったと思います。
エンターテイメント性という部分では物足りなさが少しあります。ただ、それ以上に社会派人間ドラマとして素晴らしいと感じました。