#マンホール : インタビュー
中島裕翔、“好青年”のパブリックイメージから脱却した「#マンホール」 熊切和嘉監督と語る撮影裏話
中島裕翔(「Hey! Say! JUMP」)が6年ぶりに映画主演を務める「#マンホール」(読み方:ハッシュタグ・マンホール)が、2月10日から公開された。爽やかで硬派なイメージの強い中島が演じたのは、いわゆる“ハイスぺ”の主人公・川村俊介。好青年と見せかけて、極限まで追い詰められることで人間の本性を露呈していくキャラクターだ。「チャレンジングだった」と充実した表情で語る中島、本作のメガホンをとった熊切和嘉監督に話を聞いた。
川村俊介(中島)は、勤務先の不動産会社で営業成績ナンバーワン、上司や同僚の信頼も厚く、社長令嬢との結婚も決まっている将来を約束された男。しかし、結婚式前夜のサプライズパーティで酩酊した彼は、マンホールの底に落ちてしまう。深夜、穴の底で目を覚ますと、手元にある唯一の道具・スマートフォンを使ってGPSで居場所を探るが、誤作動を起こしてしまう。警察や友人知人、元カノにまで助けを求めるも状況は悪化。ついにはSNSでアカウントを立ち上げ、フォロワーに助けを乞いながら脱出を試みる。
――中島さんは最初に本作の脚本を読んでいかがでしたか?
中島裕翔(以下、中島):これは大変な撮影になると思いました。心構えができてからはチャレンジングだなと楽しみになりましたが、とにかく結末にはびっくりして、漫画みたいに何度も読み返しました。映画を見た方にも驚いてほしいです。
――熊切監督とは本作が初タッグになりました。
中島:熊切監督はものすごく物腰の柔らかい方で、とてもこういう映画を撮るような感じじゃない。でもその純粋さというか、楽しそうな顔をしながらこういう作品を撮るところが怖いなと思いました(笑)。あと、最初に「どれだけ汚してもかっこよく撮りたい」とおっしゃっていたので、男としてかっこいいものを撮りたいという思いにシンパシーを感じました。
熊切和嘉監督(以下、熊切監督):映画の出だしの川村は表面的なかっこいい男ですが、彼の本性がどんどんむき出しになっていく中で、汚れたり情けない顔も出たり、いろいろあった上での本当の“かっこよさ”を出したいと思っていました。それはもう嫌な奴だったりもするんですけど、汚れた男のセクシーさについては、中島君が主演だったら絶対いけると思っていたので、そこは自信がありました。
中島:汚れが目立つようなスーツにしたり、メイクさんが本当にばんばん汚していってくれたんです。先輩の岡田准一くんが以前「汚しメイクのときは“もっと足してください”と言うくらいじゃないとダメだ」とおっしゃっていたんです。だから、この映画でこんなに汚してもらって本当に嬉しかったというか、「できた、汚してやったぜ」みたいな気持ちがありました。口の中までやりましたからね。後半は楽しくなっちゃって、どんどん追い詰められているんですけれど、その楽しさをひた隠しにしながら、マンホールの中で戦う男を演じていました。
熊切監督:中途半端にはしないでとメイクさんと話しをしましたが、僕が言うまでもなくメイクさんもそういうタイプの人でした(笑)。僕は映画の快楽の一つに散らかすと汚すというのがあって。日常ではできないような血まみれの汚れとか、部屋も徹底的に散らかすとか、そういうのが好きなんですよね。ただ、今回は川村が泡まみれになるシーンがありますが、泡まみれだけは二度とやりたくないです(笑)。
中島:泡まみれは本当に大変でしたよね(笑)。
――中島さん演じる川村の複雑な人物描写が的確だったと思います。
熊切監督:「細かくすり合わせてやろうね」と最初から中島くんと話していました。今回は順撮りでやれたので、「ここはもうちょっとねちっこく、まるで昔DVとかやっていたような感じでできない?」という提案をして。そうしたら、中島くんがイメージして「なるほど、やってみます」みたいな感じで、どんどんやってくれて。「こんなに嫌な顔するんだ」と、撮っていて面白くてしょうがなかったです。
中島:(嫌な顔が)できちゃうっていう(笑)。監督のくださる言葉が的確なので、イメージしやすかったんだと思います。監督とは、川村の本性が見えてくる塩梅についてよく話し合いましたね。
――ほぼ中島さんしか出られていないですが、ご自身ではどんな風に本作を楽しんで鑑賞しましたか?
中島:ドラマでも映画でもそうなのですが、初めて見るときは毎回自分の芝居ばかりに目がいって、客観的に見られないんです。その話自体が面白いかよりも、自分の芝居の反省点ばかりが気になっちゃうんです。でも、今回はすごく客観的に見られました。自分でも見たことのない表情を皆さんに引き出していただいたので、初めてに近い感覚で「客観的に見て面白い」と思うことができました。
熊切監督:編集をしていると、中島君の最初の顔と最後の顔が全然違うんです。スクショして並べようかなって思っちゃうくらい。面白かったです。
――川村は段々と人間の嫌な部分も見えてくるキャラクターです。中島さんを当て書きしたと伺ったのですが、このような役柄が当て書きさたことについてはどのように受け止めましたか?
中島:自覚していることなんですけれど、パブリックイメージから「スーツを着た好青年」という役がどうしても多かったんです。今20代最後の年なので、そのイメージを壊せるところに少しだけシフトできると自分の幅が広がるかなと考えていました。そこに、ちょうどこの作品のお話をいただきました。しかもドロドロにも、醜くもなる。「こんなに僕の見たことのない表情を出そうと思ってくれている人がいるんだ」と思ったときに、すごく嬉しくて、ありがたかったので、これはもう必死になってやろうと決めました。作品のテーマとしてワンシチュエーションで見せていくことにも痺れましたし、ワクワクもありました。
――マンホールのセットがすごくリアルでした。あのセットには共演のどなたかが遊びにいらしたりもしましたか?
中島:永山(絢斗)さんはいらっしゃいました。「大変だね」ってすごく励ましていただきました。
熊切監督:ちょっと引いていたよね(笑)。
中島:引いていましたね。「うわっ」て(笑)。マンホールのセットがセットだと思えないくらいリアルに作りこまれていたからだと思います。地面の濡れ感とか、はしごの錆感とか、どれをとっても本当に精巧だったので、そういったことも相まって、僕はこの世界を信じることができたんじゃないかなと思いました。永山さんが「ここにずっといるんだ」と気持ち悪がるぐらい陰鬱なセットだったので。
熊切:あと匂いもするんでね。先ほど言った泡のシーンで、泡を汚すために鰹節や青のりを使っていたので、その匂いが残っちゃって。
――撮影の前後でお二人の印象や関係性は変わりましたか?
中島:最初から「初めて会った気がしない」と言われていて、僕も何でだろうなと思っていたんですけれど。熊切さんはすごく物腰がやわらかくて、優しくて、とてもしゃべりやすいです。
熊切監督:僕も印象は変わらないけれど、撮影が終わってもっと好きになりました。好感度大ですね(笑)。
中島:ありがとうございます。今はお互い見たお勧めの映画をスマホのメッセージで送り合ったりしています。熊切さんは「熊切さんが好きだろうな」という映画のタイトルを送ってくださったりするんです。僕も同じ系統が好きなので、熊切さんにギャスパー・ノエ監督の「CLIMAX クライマックス」を送りました。
熊切:僕は「CLIMAX クライマックス」を見ていなくて、中島君から「逆立ちして見たくなりますよ」って言われて、なんのことかなって思ったけれど、見てみてなるほどってなりました(笑)。
――ちなみに、中島さんは熊切監督の作品でお気に入りの1本はありますか?
中島:「武曲 MUKOKU」です。とにかく雨がかっこいい。やっぱり男子は、ああいうところで戦っている男が格好いいと思う気持ちがあるというか。あの綾野(剛)さんのだらしない感じもよかったですし、すごかったです。