劇場公開日 2022年7月8日

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「夢枕獏小説の本質」神々の山嶺(いただき) シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0夢枕獏小説の本質

2023年1月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

本作は夢枕獏の小説を谷口ジローが漫画化した作品をフランスでアニメーション映画化するというややこしい作品なのですが、日本でも原作は映画化され私も観ていて、個人的に日本版は失敗作と言ってますが、他にも夢枕原作の映画化作品は沢山あって、それの殆どは原作とはかけ離れた失敗作だと私は思っています。
その主な理由は原作テーマと映画版のテーマが殆ど一致していないという事につきます。

しかし、本作では初めて夢枕獏らしい作品になっている記念すべき第一号の作品だと思えました。
ただ、本作が日本映画では無くフランス映画であったこと、更にそれがアニメであったこと、アニメ王国である日本が日本原作の本作を作れなかったことに対しては少し悔しいですね。
それ程に、本作は夢枕獏の魅力の本質を伝えていたと思える作品であり、アニメでこのような題材の作品の表現が出来る事にも驚かされました。
少し前に観た『THE FIRST SLAM DUNK』でも驚かされた、二次元と三次元が見事に融合された新しい表現が、本作にも既にありました。劇場で観なかったことに対して今更後悔しています。

で、夢枕獏の魅力や本質について簡略して言うと、「何かに取り憑かれてしまった男の物語」というのが大半です。
本作もまさに山に取り憑かれてしまった男の話ですが、日本映画では何故それが伝わらなかったのか?は、作り手の他の色々な興味(邪念)が映画に溢れていたからなのでしょうね。本作ではそういう邪念を全て切り捨てた、引き算の作品だから成功したのだと思いますよ。

夢枕獏のプロレス好きは有名で、猪木信者でもありますが、格闘技小説を書き進めて行くうちに猪木より前田日明の方に興味が移っていった様な気がして、(格闘技)小説の大半はプロレスVS格闘技の禅問答の様な作品となり、前田日明がUWF(プロレス団体)を立ち上げた時に放った言葉の「選ばれし者の恍惚と不安、二つ我にあり」は太宰治の小説の中の引用ですが、それは即ち大半の夢枕獏小説のテーマでもあり主人公の心情でもあって、本作の二人の主人公もそっくりそれが当てはまりました。

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シューテツ