「アップルバター」トジコメ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
アップルバター
D.J. Caruso監督はTriple X: RestartやEagle Eye、I Am Number 4など商業映画のベテラン。
アレな邦題だが英題もそのままShut Inだった。
母親が収納に閉じ込められるというワンシチュを引っぱる。
思うに、ベテラン監督がシチュエーション映画をつくることに、大きな違いを感じる。
すなわち日本だと映画監督は“エラい人”という不文律があるので「俺様のような“巨匠”が家屋の収納に閉じ込められるだけの映画なんか撮るかよ」──ということになるだろう。
新進の映画監督も「わたしは“鬼才”なのでシチュエーションスリラーなんて低俗なもん撮らないわよ」──ということになるだろう。
なんか冗談のように言っているが、日本の映画監督が状況劇を“しょうもない”と考えているのはまちがいないだろう。が、知ってのとおり日本の映画監督が撮るプロットはたいていもっとしょうもない。
つまりD.J. Carusoほどのキャリアを持っている監督が家の収納に閉じ込められるだけのスリラーをつくること──この位相が日本映画界の意識とぜんぜんちがう、ということを言っているのである。
まあそれはいいとして。
閉じ込められている間にも、さまざまな危機が母ジェシカ(Rainey Qualley)に迫ってくる。
残された幼い二人の子供、ヤク中の旦那、小児性愛者の旦那の仲間、寒さや飢え。
ワンシチュらしくどんどん“踏んだり蹴ったり”の状況へ追い込まれていくのが“楽しい”。
旦那もその仲間もみごとなまでのクズだが子は賢い。──閉じ込められたジェシカが扉の向こうにいる幼い長女に「○○を持ってきて」などの命を与えるたびにテッテッテと小さい子が駆ける音がするのがこの映画の白眉だったような気がするw。
閉じ込められただけの状況をじゅうぶんに引っぱって見せるし、りんごから“おばあちゃんのアップルバター”へ起→結していて感心した。
立て付けの悪い古家だが辺りはリンゴがぼとぼと落ちてくるような肥沃なところ。ほのかに煮りんご香るエンディングだった。
ところで、古い名前Vincent Galloを見つけたが、ろりこん役だったw。
オーソリティーが醜役をやるのも日本とはぜんぜんちがう。