「ジョーダン・ピール版未知との遭遇」NOPE ノープ Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
ジョーダン・ピール版未知との遭遇
過去作と比較すると、UFOというSF的存在が出てくる分かりやすい作品に思える。凡人には思いつかない展開だった過去作のイメージでいると一見肩透かしに思えるかも知れないが、簡単で分かりやすい物語の中に、流石ジョーダン・ピールという社会風刺が込められている。やはり本作で主人公となるのは黒人。黒人が馬で駆る画が撮られた世界初の映画。その映画の主人公の子孫となる家系に育った兄妹の物語だ。黒人が虐げられてきたのはもはや世界共通の人類の恥とも言うべき歴史だが、もちろん本作でもそれは顕著に描かれている。どこか見下すように描かれているシーンでの加害者はやはり白人であり、寡黙な主人公はそれに耐えてきた。一方で陽気に振る舞う天真爛漫な妹の存在。不慮の(不可解な)事故で亡くなった父から受け継いだ牧場を経営しているが、上手く回っていないのが現状である。そんな中二人の前に現れたUFO。そんなピンチな状況を、それを撮影して一躍有名になろうと二人はチャンスに変えようとするのである。
本作のテーマはズバリそれである。SNSというツールを使い、様々な情報が行き来している現代に対する風刺だ。その中には暖かいものもあるが、冷たいものまで様々だ。そんなSNSに生きる人々には、「自分を知ってもらいたい」や、「有名になりたい」という思いがあるだろう。
本作にはもう一人忘れてはいけない存在がいる。主人公二人と同じ様な思いを抱えるアジア人だ。彼もまた「成功して稼ぎたい」などの思いから、やや過激なショーを披露しようとする。この両者に大きな関係は無いかもしれないが、我々アジア人も酷い差別を受けてきた存在である事を忘れてはいけない。「有名になりたい」という思いは時に自らを滅ぼす様な事になる。近年YouTuberの事故死、テレビタレントや政治家のSNS上での失言等による炎上。あまりの悪口雑言に精神を蝕まれ、自ら命を絶つ者まで出てくる。それを具現化したのが本作に登場するUFOなのではないか。はっきりとエイリアンと明言せず、捕食者と表現するのもそれを表しているのだろう。本作のUFOがSNSそのものなのだから。冒頭で動物タレントのチンパンジーが人間の演者を惨殺するシーンにも深い意味が込められている。調教され人に慣れ、安全なはずのチンパンジーに惨殺されたのだから。だがここでも白人の演者は必要以上に攻撃して、机の下に隠れていたアジア人の子役(ネタバレしすぎるので深くは記載しない)には襲うどころかグータッチをしようとする。このシーンは差別社会に耐え切れなくなった人種が反撃を開始した様にも思えるシーンで、かなり怖いシーンだと思う。これは手元に残しておきたい名作である。ちなみに、可能であればIMAXで鑑賞するとUFOの怖さが一段と高くなる。IMAXならば当たり前の事だが、派手なSFアクションでなくてもハッキリとした臨場感を味わえる事を証明している。これはオススメしたい。