「ほのかにかおるB級臭」NOPE ノープ SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
ほのかにかおるB級臭
不思議な映画。
不思議な魅力がある、と言いかえても良い。
独創的なSF映画であることは確か。
なんというか…。謎なところが多くて、「あれってどういうことなんだろう?とつい考えてしまう」
この映画を構成しているいろいろなモチーフがなんだか意味ありげで、背後に多層なテーマが隠れているような感じがするのだが、すんなり読み解けない。
UFO(空飛ぶ円盤)、キャトルミューティレーション、雲、馬、猿、黒人、世界初の映画、ローテク…。
「動物を飼いならすこと」がこの映画の最も重要なテーマだろうことはまちがいない。
主人公は動物(馬)とどう信頼関係を結べば良いのか、わかっている人間として描かれている。逆に彼以外の人物に、(彼の父以外では)動物に配慮している者はいない。
一方、チンパンジーのゴーディーは、凄惨な事件を起こす。
ゴーディーは表面的には人間の家族のように扱われているが、それは単に人間が猿に擬人化した人間の役割を与えているだけで、猿の気持などまったく考えられていない。人間の残酷さ、傲慢さ、愚かさが凝縮されたシーンだと思う。コメディ番組の愉快なシナリオがコントラストとなって、それが際立つ。
現実のペットもこのような扱いがされていることが多いと思う。きれいな服を着せたり、誕生日にケーキを与えて祝ったり、ペットの立場からすれば意味の無いことをしているのに、飼い主は勝手に動物の気持ちを擬人化して、人形遊びのようなことをしている。それに気づかず、「ペットのためにやっている」と思っている。
あと、「日常的にそばにいる、無害だと思いこんでいるようなものは、実はすごく恐ろしいものなのかもしれない」というテーマもあるように思った。
日常の風景として見慣れているはずの「雲」が、映像の早回しによってはじめて異常が発見されるのは、非常に暗喩的だと思った。日本にも「ゆでガエル」という喩えがあるが、われわれには「ゆっくり変化しているもの」に気づきにくい性質がある。
エンドロールで、はじめ背景が黄色で、次に赤になり、最後に黒になるのも、これをあらわしているのだろう。色の変化がゆっくりなので、ちょっとの時間みただけでは色が変わっていないように見える。
UFOがすべての電子機器を使えなくしてしまう、ということにも何らかのテーマが隠されているように思った。手回しカメラ、馬、ポラロイドカメラを使ったUFO撃退作戦は単純に面白いが、面白いだけではない、何かがあるように思う。
PC、スマホ、デジタルカメラなどの電子機器が故障するとき、われわれはその故障の原因をあまり深く考えることはない。それは、その仕組みが難しすぎて分からないからだ。われわれはこれらの電子機器を理解することを放棄しているともいえる。そして、よくわからない理由でいつ故障するかわからないこれらの電子機器を、どこかで信用していない。
それに対してローテクの道具には、もちろん壊れることはあるにしろ、仕組みがわかっているという意味の安心感がある。また、大切に使おうとする気持ちをもつとき、道具に対して対話的になる。
あと気になったのは、不思議なB級臭だ。
UFOが敵ということで、B級っぽくなりがちなのに、UFOのデザインはまるきり「空飛ぶ円盤」そのものだし、徐々に明らかになってくるUFOの本当の姿も、布でできているみたいで微妙にチープ。UFOの食道(?)を通る飲み込まれる人々のシーンは完全に低予算映画みたい。
そもそも「人を食う〇〇」というのはB級映画のお約束みたいなもの。アドバルーンを食べさせて爆発させてやっつける、というのもB級らしい。
ここまでB級要素が強いと、あえてやっているとしか思えない。
1つの解釈として、監督が真にテーマとしたいのは前半の展開であり、後半のUFOをやっつけるくだりは重要ではないんだよ、ということなんかな、と思った。
追記:
「雲」って、「クラウド」のことなのかな、とふと思いついた。