劇場公開日 2022年8月11日

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「救われない者たちへの鎮魂歌」ぜんぶ、ボクのせい 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0救われない者たちへの鎮魂歌

2022年9月24日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

幸せ

児童養護施設で暮らす優太は母親の居場所を知り、1人施設を抜け出す。
なんとか母親との再会を果たした優太だったが、男に依存し自堕落な生活を送る彼女の姿は優太の知っている母親ではなかった。
遂に母親からも追い出されてしまった優太は、軽トラで暮らしているホームレスの坂本と自分には何もないと言う女子高生の詩織と出会い、自らと似た境遇の2人に徐々に心を開いていくのだが…

「ぜんぶ、ぜんぶです。」
上映終了ギリギリでなんとか観ることができた。
ミニシアターの空気感と規模がぴったりの作品だったので、ミニシアターで観ることが出来て本当に良かったと思う。
親、金、社会…etc
それらから見捨てられた居場所のない3人によるひとときの夢。
少年にはあまりにも残酷なこの夢の結末に心の中はぐちゃぐちゃだった。
自分の名前が主人公と同じだったことに加え、(位置は全然違うけれど)千葉県が舞台だったこともあって、かなり親近感を覚えた。
何度も名前を呼ばれた気がしてハッとする。
しかし、境遇に関しては彼とは全く正反対。
本当に有難いことに私は恵まれているし、親や家族に対しても大きな不満は全くない。
この映画で起こることは映画として多少オーバーに描かれているが、今もすぐそばでこのように苦しんでいる人がいるのは事実だろう。
幸せとは何なのだろうか。
詩織のように裕福な優等生でも幸せじゃないかもしれないし、坂本のように貧乏で最低でも多少の幸せの元自由に暮らす人もいる。
立場や年齢の異なる3人が同じ悩みを抱えて互いを埋め合うように浜辺に集まる姿はなんとも映画的な一幕だった。

親ガチャという言葉があるけれど、親という存在がいかに大切なのか考えさせられる。
施設の人たちや警察が恐ろしい敵のように描かれていたのも印象的。
本当はもっと優しく接していたかもしれないが、優太から見れば皆あんな風に見えていたのかもしれない。
この作品を観たいと思った1番の理由でもあるのが主題歌に大滝詠一の「夢で逢えたら」を選んでいたこと。
希望はすぐ目の前に沢山あるのに残酷な結末を迎えてしまったこの物語に合った優しいメロディ。
1人ホームで優太を待つ詩織のヘッドホンの中にもきっとこの曲が流れていたのだろう。
「これがもしも夢であったら素敵なことね。」
そんな風に言っているような気がした。

〈余談〉
シリアスなシーンなのにテレビでさらばの「男優」っていう本当にあるコントが流れてて笑ってしまった。
地上波で流すようなコントじゃない笑

唐揚げ