「スピリチュアル性の高さと、各種ホラー手法の節操ないごった煮。このミスマッチを楽しめるマニア向けか」女神の継承 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
スピリチュアル性の高さと、各種ホラー手法の節操ないごった煮。このミスマッチを楽しめるマニア向けか
もしナ・ホンジン監督の韓国映画「哭声 コクソン」を未見なら、この「女神の継承」より先に鑑賞しておくことをおすすめしたい。というのも、「コクソン」に登場させた祈祷師イルグァンをさらに深掘りするようなストーリーを考えていたナ・ホンジンが、タイのバンジョン・ピサンタナクーン監督(2013年の「愛しのゴースト」で同国歴代興収1位を達成)にメガホンを託し、自身は原案・製作として関わったのが本作なのだ。もっとも、ピサンタナクーンが兼任した脚本では、タイの地方の村に代々受け継がれる祈祷師の話に変更されたのだが、人間にとり憑いた悪霊を祓う儀式のものものしさや、祈祷師対邪悪な存在の予測のつかない戦いなど、「コクソン」の精神が確かに本作にも継承されている。
ナレーションで語られるアニミズム(万物に霊魂が宿るとする世界観)は、日本人にも民間伝承や伝統文化を通じて馴染みのある考え方だろう。一方で、いかにも高温多湿なタイの村や山の植生から、土着信仰のじめっ、ぬめっとした感覚が強調されているようにも思う。
ただ、極めて大真面目に語られるストーリーに対し、歴代のホラー傑作・話題作を彷彿とさせる映像手法やアイデアがあれもこれもと節操なく盛り込まれたごった煮状態であることに少々困惑した。「エクソシスト」のヒロインの変貌と奇行、「食人族」以降に普及したモキュメンタリー、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の手持ちカメラによるPOV(主観ショット)、「パラノーマル・アクティビティ」シリーズの防犯カメラ映像、さらに後半ではゾンビ風の集団まで、まあ出てくるわ出てくるわ。ホラー映画のパロディを目一杯詰め込んだ「最終絶叫計画」などのおふざけ企画を思い出したが、もちろん「女神の継承」のスタンスはシリアスそのもの。個人的には「コクソン」のように首尾一貫した映像スタイルの方が話に没入しやすいと感じたが、こうしたミスマッチを広い心で楽しめるホラーマニア向けの映画なのかもしれない。