「3つの深さを受け入れている妻役の広末涼子に涙」あちらにいる鬼 momoさんの映画レビュー(感想・評価)
3つの深さを受け入れている妻役の広末涼子に涙
男と女というもの自体の深淵さ。巻き込まれたら終わりだ。
そして男への愛情の深さ。男の女遊びを受け入れる懐の深さ。
この3つ全てを兼ね備えていたのが広末涼子演じる妻だ。
夫のことも知っている編集者との情事が失敗した後のてんとう虫のサンバを歌うシーン以降は涙が止まらない。
広末涼子も豊川悦司も寺島しのぶも達者なので惹き込まれなんとも言えない感情に追い込まれる。
夫の死期が近づいた時に、夫の浮気相手を男の死を間近にして呼んであげる懐の深さ。
それなのに自分の名前を連呼して手を繋いで反応したと言うことでマウントを取る瀬戸内寂聴の鬼のような業。
勝った!勝ったのだ。タクシーで帰っていく時の涙は愛する男が亡くなった悲しみだけでは無い。妻に勝った涙なのだ。
出家したことで自分のことは浮名を流した他の雑魚な女たちとは違うと男に印象づけたあたりから鬼が見え隠れする。
瀬戸内寂聴自身もとことん愛情深く簡単に別れられないから出家を選んだのだと思うが、懐は広くない。
だから出家した後もマウントを取ってしまうのだ。
男と女の深遠さには巻き込まれずに生きていく人も生涯未婚率の高まっている今の時代は多いかもしれない。
しかし、仮に巻き込まれてしまったとしたら!
自分ならどうだろう。
愛情が深すぎて耐えきれず壊れるか男の元を去るしかない。
懐深く受け止める心の深さはない。
だからこそ広末涼子のてんとう虫のサンバのところから菩薩のような姿に涙が止まらなくなったのだろう。
世界一まずいしょっぱい涙の鰻を食べるシーンは胸がえぐり取られるように痛かった。
それと共に俳優の演技のうまさが際立って見えた。
子どもには見せては行けない男と女の深遠な世界。
ゆえに表向きは平穏に生きていかねばならない。
されど男という生き物が妻に飽きないなんてことはありえないうことからも、このようなことはほとんどの場合、おこりうるのだ。
だから女たちは振り回されて悲しいのだ。
罪作りな男はそのことを知らない。
大抵の場合全部バレていて懐深く受け止めて貰っていることも知らずに先に死んでいくのだろう。