劇場公開日 2024年1月19日

「厳寒の北海道で凍った川に飛び込むなど、身体を張った場面のたびに感謝の念しかわかない一作」ゴールデンカムイ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5厳寒の北海道で凍った川に飛び込むなど、身体を張った場面のたびに感謝の念しかわかない一作

2024年2月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

大人気の原作をほとんど未読のまま鑑賞した観客による感想です。

厳寒の北海道で、山崎賢人はじめとした俳優たちが走り回る、転げまわって挌闘する、果ては凍った川に飛び込む姿に、作品の身体感覚を観客に伝えようとする熱意がスクリーンを突き抜けて伝わってきて、面白い、とかすごい、とか感じる前に、感謝の念しかないのでした。

アイヌの民族性や文化の描写が果たして適切なのか、という心配の声もあったようですが、いくつかの場面では少々説明過多では、と思えるほどに、実に丁寧な演出と描写に徹していて、むしろ好感を抱きました。確かにファンタジー的な要素もないことはなかったけど、いずれもアクション活劇の要素として許容できる、最低限度の脚色で留めています。

また本作は、ハリウッドの超大作や韓国ノワール映画とは比較にならないほどの低予算で制作してるはずだけど、例えば中盤の、小樽を疾走する馬ぞりを使ったチェイスシーンの迫真のカメラワークなど、至るところで本作でしか成立しないようなアクションを、しかも高い完成度で実現しており、ここでもまた作り手への感謝の念が立ち上ってきました。本作は今現在公開中の作品群において、『哀れなるもの』と並んで劇場で観るべき作品の一つであることは間違いありません。

フードコーディネーターをスタッフに加えているだけあって、本作はフード映画としても非常によくできています。空腹時に鑑賞するとちょっと辛くなる可能性もあるほど。ちょっとでも何かをおなかに入れてからの鑑賞をおすすめです。

このように本作は、長編映画作品として非常に良い映画なんだけど、中盤以降、「このペースじゃあ、一応の決着に至ることすら難しいんじゃあ…」とはらはらしてしまいました。結局次作に続くことが分かって、安心したような、変に心配して損した、という気分にもなったのが正直なところ。

最近は、予算の都合で続編の制作見送りとなる可能性を考慮して、続編があることを明示しない作品が増えているんだけど、そういった事情を踏まえても何か事前情報が欲しかったなぁ…(「原作の○○編まで映画化」とか。もしかしたら公式の情報を見落としてるだけかも)、というのが、本作に対する数少ないひっかかりポイントでした。

yui