「「日々生きるということ」をごろっと丸ごと見せてくれる」ショーイング・アップ ドミトリー・グーロフさんの映画レビュー(感想・評価)
「日々生きるということ」をごろっと丸ごと見せてくれる
本作でもっとも感心したのは、ミシェル・ウィリアムズの表情です。劇中、彼女のさりげない身振りや顔つきにずっと見惚れていました。
ここには、『ヴェノム』『グレイテスト・ショーマン』などで見知っている「いつもの」彼女はいません。日常の些事に振り回されて焦燥する「無名の彫刻家」の姿が、スクリーン上に息づいているのです。
それは彼女ひとりに限りません。映画『ザ・メニュー』の給仕長役で大立ち回りを演じてみせたホン・チャウにしても、『フェイブルマンズ』で変わり者の伯父さん役だったジャド・ハーシュにしても、本作ではそれぞれ「家主にして気紛れな現代美術家」「自由気ままに生きる元・陶芸家の父親」その人にしか見えない。アンドレ3000、アマンダ・プラマー、ジョン・マガロ…登場人物は全員「顔なじみの俳優が演じるキャラ」ではなく、まさに「この映画の生活空間に暮らす人たち」なのです。
ミシェル・ウィリアムズ扮する主人公は、地元オレゴン州で美大の事務員として働くかたわら、彫刻家として細々と芸術活動も続けています。個展を控えて作品制作に集中したいのに、苛立ちのタネとなる出来事が次々とふりかかって…。
終盤、個展の会場に主要人物たちが一堂に会し、見事な「オチ」がつきます。ラストは画面奥へと歩み去る主人公たちの背中に、劇中で重要な“役割”を果たしたハトの鳴き声が被ってかすかに聞こえます…。この一連の「語り口」の鮮やかさ!
繰り返しのようでいて決して同じではない毎日の営み。気がかりな心配事もちょっぴり好転したような、してないような…。そんな、ささやかな人生の「歩み」がこの後もずっと続くのだろうと思わせる見事なラストシーンでした。
この、言葉ではうまく伝えきれない雰囲気、時の流れ。あえて似たテイストの映画を挙げるなら、どこか寓話的な香り漂うジャームッシュ監督の『パターソン』よりも、震災地の人々が暮らす様を淡々と追った『ラジオ下神白』『空に聞く』など小森はるか監督作品の方が近い感じがします。
でもやっぱり、コレは唯一無二な“ライカート・ワールド”ですね。感傷も教訓も諦念も込めず、ただ「日々生きるということ」をごろっと丸ごと見せてくれる。他の監督が決して選択しないような“切り取り方”で、彼女の作品ならではの「空気感」を醸し出しているのです。
以上、オンライン参加の監督によるティーチイン付き試写会にて鑑賞。
最後に注意事項。本作鑑賞にあたり、直前の食事は控えるか量少なめに。また前日の睡眠は十分にとったうえで臨みましょう(笑)