劇場公開日 2023年9月15日

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「嫌いになった理由はあるのか? 「理由は無い」と答えるデプレシャン監督」私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5嫌いになった理由はあるのか? 「理由は無い」と答えるデプレシャン監督

2025年7月5日
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鑑賞方法:VOD

さて皆さん、
ごきょうだいの仲は良好ですか?
再会する時に、ためらいや緊張は起こりますか?

僕の友人が、御尊父を亡くされて、葬儀のために田舎へと帰りました。
ずっと仲の悪かった兄弟が (仕方なく) そこで顔を揃えたのだそうです。

長男のお嫁さんが、精一杯の勇気を振り絞り、気を利かせて、「こういう機会だからみんなで写真を撮りましょう」と、思い切って提案した。

「あ、俺いいスから」と、バネに弾かれたように三兄弟はカメラの前から離れてしまったのだと。
お嫁さんが、可哀想すぎる。
みんなが辛い。
たとえ親の葬式でも
兄弟の仲は修復は出来ないんですよ。

・・・・・・・・・・・・・

本作では、不運な交通事故で危篤の重傷を負った父親と母親が登場。
年寄りには切なる願いがあったことだろう。
仲たがいする娘と息子、この姉弟を憎しみの呪縛から解き放つこと。

例えそれが積極的なものでなかったとしても、親がいなくなることが、子らの接近のきっかけの足しにはなるかも知れなかったのに。

けれど作家の弟と、女優の姉だ。
出演者の名前を見れば、これが一筋縄ではいかない映画だと察しはついたけれど、
いま、ちょっとした小説を読み終えた感がある。

それぞれの独白がこの映画の物語を導き、彼らの想いと生き様を言葉にしてナレーションする。
二人の表情と声の穏やかさがとてもいい。フランス語がいい。

けれど二人が対面すると、その穏やかさは消える。
ヒステリーの発作。早口の怒号。共に暮らせない二人。似たもの同士。
これからもこの緊張関係とDistanceは続くのだろう。

・・・・・・・・・・・・・

僕も弟とは疎遠で。
修復は出来なかった。無念だけれど、どうにもならなかった。

それでも世界の何処かにその相方がいる。
この姉弟の関係=「理由なき反抗」と「生理的拒絶感」が
それぞれの人生のための反転した海図であり羅針盤であってくれるのだろう。
つまり引き合うことだけが人間関係ではないのだ。
対極の存在として、反発して遠ざけることも自分の譲ってはならない立ち位置だ。

各シーン、各エピソードは
羅列に終始しているばかりで、ハッピーエンドでもバッドエンドでも無いのだが、衣装も美術も演出も良い。そして出演者たちの演技はずば抜けている。
だから飽きずに観ることが出来るわけだ。

「反感」は、小さな事件の積み重ねで骨身に刻まれて来た場合もあるし、ある日突如として始まるケースもある。
そして生まれながらに反りの合わない肉親もいる。

確かにこれは出来の悪い映画かも知れないが、出来の悪い人間を映すのだから、仕方もない。
この映画は、ノーマルはひとりもいなかったし、種明かしも結論もない。
てもこういう前後不覚の「切り取られた瞬間」の物語が堪らなく好きな自分にとっては、幾度も観返してみたい、実にハマってしまう作品だった

「理由は無いけれど、嫌いな身内がいる。そしてこれが日常・・」
という
身に覚えのあるスーパー・レアリズムの映画なのだ。

🌿✨

でも口直しに
益田ミリ原作の「僕の姉ちゃん」を観てなごむ。
実写版の主演は黒木華なんです(笑)

きりん
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