「有名な舞台女優のアリス(マリオン・コティヤール)と、弟で詩人のルイ...」私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
有名な舞台女優のアリス(マリオン・コティヤール)と、弟で詩人のルイ...
有名な舞台女優のアリス(マリオン・コティヤール)と、弟で詩人のルイ(メルヴィル・プポー)。
ある夜、ルイの幼い息子が病気のため死んだ。
弔問に訪れたアリス夫婦を拒絶したルイ。
ふたりは長い間、仲違いをしていたのだ。
それから数年。
兄弟の老いた両親が冬の林道を自動車で走っているとき、凍った路面にタイヤをとられた自動車が正面からやって来た。
正面衝突をすんでのところでかわしたが、若い女性が運転していた車は林の中へ突っ込んでしまう。
救助に駆け寄る老夫のもとへ、ハンドル操作が効かなくなった大型トレーラーが突っ込んできた。
若い女性は即死、老夫婦は病院へ搬送された。
これがきっかけで、アリスとルイはしばしば顔を合わかけるのだが、どちらも頑として会おうとしない・・・
といった物語で、ふたりの仲違いの原因が明確に示されないので、観ていてもどかしい類の映画です。
この手の、原因が示されない、最後まではっきりとは描かれない映画は、日本ではおおむね評判は芳しくなく、本作も巷のレビューではそんな感じ。
ま、ひとにはそれぞれ事情があるので、そこんところ深入りしなくてもいいんじゃない、というお気楽な立場のわたしとしては、原因がはっきり示されなくても結構面白かったです。
ただ、映画を子細に観ていくと、なんとなく原因めいたものがわかってくるような感じがします。
両親と折り合いが悪かったルイ。
特に、母親とは折り合いが悪く、年の離れた姉アリスが母親代わりの愛情を注いでいた。
ルイも、アリスに対しては、姉や母親への愛というもの以上の感情を、どことなく抱いていた。
アリスは若くして舞台女優として頭角を現したが、ルイは詩人とて一向に芽が出ない。
が、ある時、何冊目かの詩集で注目を浴び、賞を獲る。
満面の笑みで、「あなたのことが嫌いよ」とルイに祝福するアリス・・・
と、この時まではふたりの関係は良好。
というよりも、かなり深い愛情で結ばれている感じがする。
その後、ルイが発表する作品は評判を呼び、彼の成功に嫉妬めいた気持ちを覚えるアリス・・・
なのだが、それが成功に対する嫉妬だけではないようで、自身に献辞を捧げられたルイの新作に対して、アリスは唾棄すべき視線、嫌悪の表情を見せる。
どうもルイの詩集には、アリスとの関係が赤裸々に綴られている気配なのだ。
ただし、オブラートに包んでいるだろうし、そのものずばりではないだろうが(なにせ詩集なので、隠喩や暗喩があるだろうが、読む人が読めばわかる程度に)。
で、そのルイとアリスの関係なのだが、後半、体調を崩したルイが全裸でアリスのベッドへもぐり込むエピソードがあり、ここで「ははぁん」と気づく。
ルイの一方的は思いかもしれないが、アリスに対して「憧憬の生身の女性」といった、ちょっと生臭い愛情を抱いていたのだろう、と。
まぁ、そんなものが隠喩や暗喩といえども語られて、出版されたとしたら、アリスとしては赤面もの。
怒り心頭、絶対許さない。
というわけで、これはこちらの勝手な想像なんだけれど、そういうものだから、結末は安易に姉弟の再生には向かわない。
ま、どこか根っこのところで、いがみ合いながらも寄り添っていた過去を含めて、妙に共存していたふたりが、それぞれ別個に、大いなる意思をもって出発するのは、再生といえばいえる結末なのだけども。
ということで、アルノー・デプレシャン監督にしては短い尺の2時間の作品。
これまでだったら、ふたりの下のゲイの弟のエピソードや、両親の過去のエピソードなどを詰め込んで、本筋が描写不足になりそうな尺なのだが、マリオン・コティヤールとメルヴィル・プポーのやや重苦しい芝居をみせるということに焦点をおいた本作は、デプレシャンの2時間作品ではじめて満足した作品でした。
(デプレシャン作品は2時間半は必要だよね、って思っていたものですから)
なお、ルヴィル・プポーはやや芝居が重すぎるかな。
あれだけハンサムなんだから、もっと女性にモテモテでも然るべきだと思うんだけれど、意外といまのフランスではモテないタイプなのかしらんね。