劇場公開日 2023年4月14日

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「道徳という名の魔女狩りはなくならないのか」聖地には蜘蛛が巣を張る ミカさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0道徳という名の魔女狩りはなくならないのか

2023年5月5日
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鑑賞方法:映画館

怖い

昨年、テヘランで女性の頭髪を取り締まる道徳警察に逮捕された女性が亡くなった。頭髪を取り締まるとは、悪いヒジャブの付け方をしていないかどうかを取り締まることである。その後、抗議デモが広がったが、抗議デモに参加した女性達も警察の拘束後に亡くなっている。

連続殺人を起こしたサイードは敬虔なイスラム教徒であり、イランイラク戦争では戦死も厭わない程に軍人として祖国に尽くした。家庭では、良き夫良き父親である。彼の行為はPTSDによる可能性もある。しかし、娼婦に向けられたヘイトはPTSDだけが理由ではない気がした。

サイードはどんなに模範的に生きても国家に尽くしても社会に認められなかった。サイードは自身の虚しさを感じない様に怒りの矛先が必要だった。道徳心=不浄なものを浄化するというサイードの大義は、後付けに他ならない。

この間違った大義は、サイードだけに限ったことではない。それは、私にもあなたにも、一部の特権階級を除いた全人類に普遍的なテーマなのだ。例え私が国家の為に命を投げ出したとしても、国家にとってはただ一人の人間が死んだだけのことである。言いようのない怒りが湧いても、怒りの矛先は権力には向かないで弱者に向く。

特に慢性的な貧困と暴力が蔓延る社会では、誰もが容易くサイードになり得るし、娼婦にもなり得る。

日本においても貧困化の進行度と比例して、堂々と差別発言する人(特に男性)が増えたと感じる。高度経済成長期、バブル期には特に優秀でなくても男性であれば妻子を養う程度の賃金はもらえた。こういった男の沽券や面目が保持できなくなったことも差別発言に影響していると思う。

私はサイードと堂々と差別発言をする日本男性が被って見えた。また、サイードを支持した男性達と差別発言に同調する良き夫良き父親である日本人が同じに見えた。

ミカ
レントさんのコメント
2023年10月6日

こんばんは。おっしゃる通り人間は弱い生き物ですから、自分より下のものを蔑んで自らを慰めようとしますね。
私は権力に対してはいつも悪態をついてますが、自分より弱い者には今のところ目がいきません。まだまだ追い詰められてないからかもしれませんが。

レント
humさんのコメント
2023年5月6日

おはようございます。
〝特に…なり得る〟の一文と最後の母が撮る兄妹のシーンが残像のように印象的に頭のなかをぐるぐるします。

hum
NOBUさんのコメント
2023年5月5日

今晩は。いつもありがとうございます。
 今作は恐ろしき作品でしたね。
 何が恐ろしかったはご存じの通りですが、彼の国での女性蔑視及び連続殺害犯を父に持つ息子が”誇らしげに”父の犯行シーンを再現するシーンには、言うべき言葉が有りません。
 女性蔑視を遥かに超えた宗教的な根本的な考え方。暗澹たる気持ちになります。けれどもこの作品は故に発信するメッセージが強烈に印象に残ります。では。返信は不要ですよ。

NOBU