「不条理しかない「聖地」の夜」聖地には蜘蛛が巣を張る TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
不条理しかない「聖地」の夜
平日に休みとってまでなぜ「こんな映画」を観てるのか。終始、いやぁーな気持ちで観続けた本作ですが、そもそも、観たいものだけ観ていては知らないままの世界があります。
シンプル過ぎて、反ってえげつなく感じる殺人シーンが繰り返されるこの作品は、今から22,3年前のイランで起こっていた連続殺人事件が基に作られています。そのため、作中のシーンで映り込むテレビのニュースでは、01年に起きた「9.11」のニュースが流れていたりします。
被害にあう女性たちの殆どは、恐らく色々な事情で選択肢なく「娼婦」となり、男たちに虐げられるだけでなく、女性たちからも蔑まれています。そんな過酷な状況に加えて「殺人鬼」の恐怖に怯えながら、それでも生きていくために夜な夜な路上に出る彼女たち。強調して言うべきは、途切れなく現れる男たちがいるのです。そして、そこに紛れて彼女たちに「粛清」を続ける殺人鬼。もう不条理しかない「聖地」の夜はヤダ味しか感じません。
そして、真実に立ち向かおうとするジャーナリスト、ラヒミ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)。地元警察は頼りにならないばかりか、むしろ捜査しているのかも疑わしく不信感しか感じません。更には「残念ながらも想像通りの言動」でラヒミの気勢を削ごうとします。それでも諦めないラヒミ、自らドンドンと深みにはまってまで真相に迫るのですが、、、
イスラム教シーア派における聖廟都市(聖地)であるマシュハドで起きたこの事件。私にとってイスラム教は「イメージ」以上のものはほぼないため、これを簡単には結び付けて話せないものの、やはり切り離せないのは、完全なる女性への差別。その事情に関係なく、身を売る女性の「戒律違反」を一方的に非難し、買う側の男には全くのお咎めがない。そして、不貞を働く夫を庇ってまで、やはり「戒律違反」する女が悪いと論理をすり替えてまでプライドと家(ファミリー)を守ろうとする女性たち。更に「不条理」に対する理解がないうちに刷り込まれ、洗脳されていく子供たち。そしてまた、娘を殺されても尚、生活に追われ、また体裁を守るための選択をする被害者家族たちなど、もう言葉がありません。
とは言え、一つの作品からもたらされる印象だけで偏見をもってはいけません。だからこそ、知らない世界を知るために、たまにはこんな過酷な映画も観る必要性をしみじみ感じる一本でした。