「歪んだ正義感が暴走する時」聖地には蜘蛛が巣を張る bionさんの映画レビュー(感想・評価)
歪んだ正義感が暴走する時
アッバシ監督さん、何てもの見せてくれるんだ。この残酷な世界を見なかったことにするのか、それとも監督が提示した難題に頭を悩ませ続けなければならないのか。
聖地マシュハドの聖廟近くで客を待つ売春婦に対して憎悪を抱くサイード。彼が売春婦を殺すきっかけは語られていない。些細なことで怒りを爆発させるシーンで、兵士時代になんらかのトラウマを持つに至ったことが窺い知ることができる。
サイードの連続殺人が明るみに出ても、聖地を浄化した英雄として崇める民衆が多く、サイードの裁判は政治的な側面を見せ始める。
警察、検察、裁判官は心情的には、サイード寄りだと思うが、国際的、政治的に公正な裁判であることが要求されていて、下手なことはできない。特に裁判官はイスラム法学者として、後世に汚名を残したくないのだろう。微妙な表情から、そう感じた。
イスラム共和制という名の元で、制限される女性の人権、虐げられる女性。それを当然と思う男社会。それをテーマにしながら、先が読めないサスペンスフルなストーリーで、ラストは二段構えの強烈なパンチで、心が折れます。なんか『ダンサーインザダーク』を思い出してしまった。
ドラマ『The Last of Us』で、エンタメ作品を撮らせても文学性が滲み出てしまうアッバシ監督。今回は、テーマ性があるのにエンタメ性を発揮する異能ぶりでございます。
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