「グロ描写をメインにしたいのかストーリーをメインにしたいのか」哭悲 THE SADNESS ssさんの映画レビュー(感想・評価)
グロ描写をメインにしたいのかストーリーをメインにしたいのか
描写の残酷さも謳った「哭悲 THE SADNESS」
「グリーンインフェルノ」や「ホステル」等のラインのグロ描写映画と思って
楽しみに観に行きましたが結果としては非常に残念なものでした。
●ウィルス感染者の症状とその背景のリンクが乏しい
ウィルスに感染した人間はその者が持つ様々な欲望を抑える事が出来ず、
また狂暴性を助長する要素も持ち非感染者へ最も恐れる残虐行為を行ってしまう。
しかし感染する前の自我もあり罪悪感に涙を流しながらも残虐行為を繰り返します。
ウィルス感染・ゾンビものとしては過去の自我があり罪悪感を持ちながら・・・
という部分はアイアムアヒーローの様なゾンビの在り方としてとても良い要素になりそうでした。
しかし、映画本編には残虐行為をする前に一筋の涙を流しそして残虐行為を行うシーンが
2・3シーンあるだけでほとんどが普通に感染者がただ人を殺し楽しむ様に見えます。
グロ描写に特化してシーン展開するならむしろこの罪悪感を持っているという要素は
邪魔に思います。そしてラストのシーンでは主人公が感染した彼氏に語り掛け
自我がある部分と感染してしまった部分の両方を垣間見てしまい悲しみに暮れます。
このラストのシーンに向かう為にそれまでテンポ良くあったグロ描写のテンポが崩れ
非常に陳腐なストーリー展開を最後に観させられてしまいます。
前半は血しぶきやグロ描写に特化した流れだったのに後半で全てが想像範囲内の
ストーリー展開になりどっちつかずの中途半端な作品になっていました。
●描写するものに関して一定のラインがあるのが見える
冒頭では地下鉄の車内でナイフを持った男が次々に乗客を刺していき、
ヘッドフォンをつけた太目の男性の首元にナイフを刺した瞬間、
1人分の量とは思えない位の血しぶきが電車の天井にまで吹き上がります。
正直この時点でかなり違和感があったのですが、これはこれでエンタメなのかなと。
個人的に気になったのはグロ描写に入るシーンの際に
例えば目に指を入れるシーンがあるのですが入れる瞬間からではなく
既に入った状態からシーンが写されます。
また地下道で感染したサラリーマンのおっさんが男に斧を振りかざすのですが、
それはおっさんしか見えない視点で血しぶきだけが上がります。
またおっさんに傘で目をぶっ刺され治療の為、車椅子に乗っていた女性に対し
おっさんが性的興奮を抑える事が出来ず興奮した性器を目にぶち込むシーンがあるのですが、
それも腰より上のシーンしか無く女性の悲鳴のみが聞こえます。
この様に既に終わった・もしくは行為の途中のシーンはあるのですが
始まる瞬間やそここそしっかり描写するべきだろ!という倫理観の無いシーンは
軒並み描写が抑えられているような気がしました。
なので何となくの描写されるラインが見えてしまい冷めた部分がありました。
作中でサラリーマンのおっさんが「性器を目にぶち込んだ時、女性は初めは嫌がっていたが
途中からは気持ちいい!もっとして!と言ってた」と語るシーンがあるのですが、
それこそ語らずにシーンとして見せて欲しかったなという気持ちでした。
シーン中、感染者に殺される・もしくは犯されるシーンがあるのですが
「やられている方も途中から気持ちよくなっている」という設定があり
これがとても気持ち悪く良い要素になっていると思ったのですが、
ここもあまり活かされず描かれずなので非常に惜しいなと思いました。
●そもそもあまりグロくない
これは自分の感覚ではあるのですが、「グリーンインフェルノ」や「ホステル」
また「SAW」などのグロ描写に定評のある映画と比べると
描写自体はそこまででは無くもはやコミカルであると思える部分もありました。
特に大統領がスピーチ中、感染していた自衛隊の隊長に口に手榴弾を入れられ
顔が爆破するというシーンがあるのですが、あれだけ血しぶきを謳っているのに
このシーンだけ血の描写は無くゴム風船のように顔が破裂します。
先ほど言った地下鉄の男性の血しぶきの量もそうなんですが、
全くと言っていいほどリアリティのある描写がありません。
動く描写1つ1つに誇張が目立ち、行き過ぎたグロになっているような気がしました。
以下良かった点です。
●静止シーンでのグロ描写の精度は高かった
先ほどは流れやストーリーとしてその描写はおかしいといった点でしたが、
凄惨な状態になった町の状態や車に惹かれたおばあさんの死体。
また感染者同志が血まみれになりながら乱交をしているシーン等、
切り取って見てみると非常に丁寧に作られたシーンは多々ありました。
ただそれ以上に描いて欲しかった部分が描かれていなかったり
カメラの視点によって制御された部分が多かったのでそこが非常に残念です。
●役者陣の演技
感染者は目が黒いビー玉の様になり人間味の無い非常に恐い見た目になります。
先ほど話したサラリーマンのおっさんは主人公の女性を必要以上に追いかける存在になり、
感染する前に主人公に話しかけるおどおどした感じや卑屈さ
感染者になってからの人間味のある気持ち悪さと感染者としての気持ち悪さが入り混じり
映画全体を見ても非常にアクセントとなる存在になっています。
どうしても彼氏の存在が薄くなってしまっているのですが、
それをサラリーマンのおっさんの存在感が上回っており愛すべきキャラクターになっています。
また感染者も感染もの特有の超人的な力を手に入れるという感じでもなく
あくまで基本の部分が人間でありそこに残虐さや非人道的な部分が加わっただけで
そこのラインを守っているのもとても好印象でした。
やはりグロ描写を謳っている分ハードルが幾分と上がってしまい、
映画自体もグロ描写に特化していればよかったのですが、
ストーリー性も少しあり感染者の設定も活かしきれずといった感じで
全てが中途半端な作品だったなという印象でした。
それこそ「グリーンインフェルノ」や「ホステル」
「SAW」や「アイアムアヒーロー」などの作品と肩を並べる作品とは言えません。