「ゾンビ映画の変異種として楽しめるが、人間の「業」が浮かび上がってこない」哭悲 THE SADNESS tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
ゾンビ映画の変異種として楽しめるが、人間の「業」が浮かび上がってこない
恐怖の対象を「人肉を喰らう生きる屍」から「凶暴性や残虐性のリミットがはずれた人間」に置き換えた新手のゾンビ映画だが、よくありがちな「殺されるのを待っている」みたいなイラッとさせるシーンもあるものの、基本的には、「生き残り」をかけた戦いと、そこから生まれるスリルとサスペンスを楽しむことができる。
ただし、ゾンビ映画の醍醐味の一つである群像劇としての面白さが今一つなのは物足りない。ヒロインと一緒に逃げることとなる女性や、地下鉄のシャッターを閉めた男性などは、もっと「キャラ立ち」させることができたのではないかと惜しまれる。優れたゾンビ映画というのは、そうした群像劇の中から、人間の本性とか「業」とかいったものを浮かび上がらせるものだからである。
確かに、ウィルスに感染していなくても人間は十分に残虐であるといったメッセージや、政治によって感染が拡大したといった社会批判も感じ取ることはできるのだが、もっと、「本当は、普通の人間が一番恐ろしい」ということが強調されても良かったのではないだろうか?
この映画の見せ場が、目を覆いたくなるような残酷描写だけというのでは、せっかくの新機軸がもったいなさ過ぎる。
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