劇場公開日 2022年7月15日

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「原作モノの映画化について」戦争と女の顔 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0原作モノの映画化について

2024年11月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

カンテミール・バラーゴフ監督作品、キネ旬ベスト2022年度9位

見逃し作品でいつか見ようとは思っていましたが、苦手な作品の予感もしていたので中々手が出せず、作品もノンフィクション作品を原案にした映画(ドラマ)という事で、どんな作品になっているのか想像も出来ませんでした。
今までにも原作モノ作品について色々な感想で述べて来ましたが、本作の場合制作側は原作に対してあくまでも発想のヒントとして、時期的にロシア・ウクライナ危機とも重なっているので、原作メッセージを借りながら自分たちの意思表明としてこの作品を作った様に想像しています。

勿論原作は読んでいませんが、見終わって(記録映画ではなく)ドラマにして大正解だと思ったし、かなり自由に自分の個性(作家性)を出していた様にも感じ取れました。何故なら反戦映画にしては凄くアーティスティックな趣の作品であり、見ているとそちらの方(主題よりも表現)に気が取られてしまいましたからね。
目に焼き付く緑と赤と黄を基調とした画面と、まるでベルイマン映画の様なクローズアップと、(適度に長く多い)BGM無しの無音の映像を見せられていると鑑賞と言うよりも観察に近い感覚となり、映画の主題よりも映し出されている生の人間の方に関心が向いて行くのですが、最終的にはテーマから外れずに原作の元々あったメッセージがちゃんと届けられているという感覚はありました。

ちょっと調べたら、この監督がこの作品を手掛けたのは29歳ということで、やはりどこの国にも優れたアーティストがいるのですね。
この若さでこんな作品作られると次はどんな作品を作るのだろうと思わずにはいられません。
あと、この主演女優二人もこの作品がデビュー作ということで、それにも驚いてしまいました。
それともう一つ、重要な登場人物であるブルジョワの息子サーシャ役の俳優が、プーチンの若い時は恐らくこんな感じであろうと思える位に顔がソックリだったのは、作り手の作意があったのかなぁ~?もしそうだったとしても十分に納得できますね。
あの役も複雑な役柄でPTSDの連鎖というのか二次被害というのか、彼がその後プーチンの様な人格になったとしても十分に納得できました。

で、ちょっと話を戻して原作モノについてもう少し感じたことを話すと、原作モノと一口にいっても娯楽(商業)映画の場合と、アート作品場合とでは、原作側と映画側との立場がかなり違ってくるのだと思います。
分かりやすく言うと、娯楽作品の場合は作らせてあげる側と作らせてもらう側という立場にした方が問題が起き難い気がしますが、アート作品の場合は(本作を見てから思った事ですが)原作とのコラボレーションとかセッションという意味合いに近い感覚で映画製作した方が、優れた作品が生まれる可能性が大きくなる様な気がしました。

シューテツ